医薬品開発における非臨床試験から一言【第7回】

2020/07/10 非臨床(GLP)

今回は大動物を用いた非臨床試験について考えてみます。
ステーキに刺身、サラダに炭水化物と、生活習慣病が気になる文明人の食事に対して、雑食だがベジタリアンで果実食のカニクイザルは代謝機能が異なり、速く代謝される感触があります。植物性のたんぱく質などを代謝して吸収するのは大変で、ウシやウサギのように消化管が長くなり、植物性のエサの代謝が発達すると、動物性のエサの代謝は簡単になり速くなります。また、イヌは雑食でヒトとの共同生活も長いが、飢えに備えて(?)、摂餌12時間後ぐらいに、再度、胃から小腸への排出の動きがあり、血中濃度推移の評価を難しくしています。ウサギは草食で、毒性試験での分類は大動物でもなく小動物でもなく、一方で胚・胎児発生試験の動物種として重要で、実験動物種には様々なしがらみがあります。

非臨床試験での薬物動態は吸収・分布・代謝・排泄の過程を総和した研究であり、単に代謝パターンが近似していることでヒトに近いとの考え方は早計と言わざるを得ません。サルにおいても吸収あるいは排泄がヒトと異なる場合があり、未変化体の血中曝露は、むしろイヌがヒトに近いと考えられる事例もあります。単回投与毒性試験のガイドラインでは2種以上の実験動物を使うことを求めており、そのうち1種はげっ歯類、1種はウサギ以外の非げっ歯類から選ぶことになっています。非げっ歯類ではイヌを選択しやすいですが、サルもヒトに近い動物種として有用です。非げっ歯類の選択は、トキシコキネティクス(TK)を組み込んだ毒性試験から得られる情報を説明するためにも、動物種の選択の妥当性が重要となります。

サルは人間に近い動物なのかは単純に回答できません。実験動物の中では、サルがヒトに最も近い代謝を示すと考えられます。すなわち、一連の薬物代謝酵素の遺伝子をラット、イヌ、サル、およびヒトで比較した場合、サルが最も高い遺伝子配列の相同性を示し、薬物の代謝パターンもヒトに近いことが多いようです。たとえば、中枢興奮薬であるアンフェタミンはラットではおもに芳香環の水酸化を受けますが、ヒトおよびサルではおもに脱アミノ化を受け、モルモット、イヌはその中間です。しかし、サルは入手が困難であり使用できる頭数も限られ、動物倫理の課題もあることから、代謝ができるだけヒトに近いか、肝臓試料を用いたin vitro実験でヒトに近い代謝を示す動物種を用いて薬効、安全性の評価を行うなどの試みが必要になります。

イヌだけ明らかに他の種と異なるPKの要因として、吸収が悪い、あるいは代謝が早いため毒性試験で十分な未変化体の曝露が得られない場合は、サルの結果が勝っておれば、そちらを選択する判断も成り立ちます。しかし、イヌで代謝が遅い等の相違があっても、TKから未変化体の曝露が臨床試験の開始をサポートできる程度にカバーされておれば、評価対象の選択肢にイヌを加えることは可能です。一方、イヌではアルデヒド酸化酵素3,アリルアミンN-アセチル化酵素を欠損していることが知られています。したがって試験化合物がこの酵素により代謝を受ける場合、イヌが薬物動態評価および安全性評価において適切な動物種とならないと考えられます。

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執筆者について

内藤 真策

経歴

兵庫県出身。元(株)大塚製薬工場 研究開発部員。
医薬品開発における薬物動態からの安全性評価を専門とし、光学活性体の薬物動態、mRNA変動による肝臓の酵素誘導、薬物相互作用などの分野に注力してきた。京都大学で学位取得。現在は信頼性の基準について議論。
製薬協基礎研究部会では長年に渡り副部会長を務め、薬物動態分野のレギュラトリーサイエンスを牽引した。徳島大学客員教授、薬物動態談話会常任幹事、日本薬物動態学会および日本毒性学会の評議員を務めている。
論文は英文97報、総説3報を執筆し、共著では「ファーマコゲノミクスの進歩と創薬科学への応用」、「代謝物の安全性評価における投与量設定と投与経路選定」、「探索段階を含む非臨床と臨床段階での非GLP 試験の効率的実施事例」など10編を数える。薬剤師、趣味は写真撮影・ドライブ。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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