バイオ医薬品分野における品質保証責任者の独り言【第3回】
第3回:品質保証部門の役割 ――「止めること」か?
はじめに
ある日、現場からこんな相談が飛び込んできた。
「設備のアラームが一瞬鳴ったが、ログを見る限り温度も圧力も規格内で推移している。ラインは動いている。止めるべきか?」
この問いに対し、QAがもし「手順に書いていない。だから止める。」と返したらどうなるか。現場は「またか」と肩を落とし、別の誰かは「どうせ止められるから相談しても無駄だ。」と学習してしまう。逆に、QAが「止めなくてよい。」と軽々しく言えば、何かあったときに取り返しがつかない。どちらも正解ではない。
ここで大切なのは、QAの仕事は「止める」か「通す」かの二択を出すことではない、ということだ。QAの役割は、現場が抱える不確実性を判断可能な形に変換し、品質を守りながら業務を前に進めることである。つまり、QAは“ブレーキ担当”ではなく、“ハンドル担当”であるべきである。
1. QAが「止める部門」になってしまう構造
なぜQAは「止める部門」と見られがちなのか。理由は単純で、QAが日常的に扱う案件の多くが「逸脱」「変更」「苦情」「不適合」といった、いずれも“止める判断”を伴いやすいテーマだからである。問題が起きたときに登場する頻度が高いぶん、現場の記憶に残るのは「止められた瞬間」ばかりになる。
さらに悪いことに、QAが“正しさ”を守ろうとするほど、言葉が短くなる傾向がある。
「規制上、不可である。」
「手順にないので認められない。」
「根拠がないのでNGである。」
これは間違ってはいない。しかし、この“短さ”が誤解を生む。現場から見れば、QAが状況を理解せず、万能の札「規制」を切っているように映ってしまうのだ。結果として、QAの存在価値が「止める」ことに固定されてしまう。
2. 本来のQAは「Yesの設計者」
品質保証の本来の仕事は、禁止事項を並べることではない。どうすれば適切にできるかを設計することである。言い換えれば、QAの価値は「Noを言う力」ではなく、「Yesを成立させる力」にある。同じ相談でも、QAの返し方は変えられる。先ほどのアラームの例なら、こうである。
「止める/止めない」ではなく、まずリスクを見立てる。
影響が疑われる品質特性を洗い出し、確認すべきデータを示す。
その結果に応じて、続行条件や隔離条件を決める。
必要なら、次回から迷わないように手順に落とし込む。
こうして初めて、現場は「相談して良かった」と思える。QAは現場の足を止める存在ではなく、迷いを減らし、判断を前に進める存在になれる。
3. QAが持つべき3つの視点:品質・現実・合意
「前に進めるQA」になるために必要な視点は、突き詰めれば次の3つである。
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