最新コスメ科学 解体新書【第32回】
米でつくった化粧品① 米パラフィン
化粧品業界には、ちょっとした米ブームが来ています。店頭に行くと、米ぬかエキスやオイルを配合したスキンケア・ヘアケア化粧料が並んでいるのです。多くの国で主食として愛されてきた米は、美容の観点からも魅力的な植物原料として扱われ、様々な機能が見い出されてきました [1-3]。例えば、米のとぎ汁や、麹菌、酵母、乳酸菌等の微生物を活用した発酵プロセスによって得られるエキスは、肌に対して多様で優れた生理活性を示すことが知られています。さらに、精製された米ぬか油を水中に極めて小さく分散させたナノエマルション技術を用いることで、高いスキンケア効果が得られることも明らかになっています。
この十数年間、世界中でSDGs、つまり持続可能な開発目標の達成に向けた取り組みが進められてきました。それに伴って、化粧品業界でも、従来の石油由来の原料から植物由来の原料へのシフトが推進されています。そんな中で注目されているものの一つが米ぬかです。玄米を白米へ精米する過程で生じる米ぬかは、膨大な量が排出されており、食用として利用されずに廃棄されてしまうケースが少なくありませんでした。そんな事情で、米ぬかを食料問題と競合しない非食用の未利用資源として利用しようとする取り組みが進められるようになったのです。
そんなある日、米ぬかを資源化する研究を推進している東北大学のグループから相談がありました。
「米ぬかからこめ油とビタミンEを抽出したあとに残る、真っ白でサラサラな粉を調べてみたらいわゆる「パラフィン」と呼ばれるワックスだったのですが、何かに使えませんか?」
この質問を聞いた瞬間、ある直感がひらめきました。パラフィンといえば、炭化水素の一種で、油剤を固めて口紅をつくるのに欠かせないオイルゲル化剤の代表的な成分なのです。
「身近な米ぬかから採れた天然ワックスで、最新のメイクをつくる——」
これほどサステナブルでキャッチーな話があるでしょうか。胸が高鳴るのを感じました。
実は、米ぬかには、ビタミン、ミネラル、食物繊維等、われわれの身体を健康にするために有用な成分が含まれています。東北大学のグループは、フロー型反応分離システムというオリジナルの技術を使って、米ぬかから脂肪酸エステルやビタミンEを抽出・分離することに成功していたのです[4]。この方法は従来法よりも抽出・分離に必要なエネルギー消費量と溶媒使用量が少ないため、環境負荷の低いグリーンな手法として注目されていました。パラフィンを抽出したい時は、米ぬかの溶解液を冷却して融点の高いパラフィン成分を真っ先に沈殿させ、これをろ過するとともに、イオン交換樹脂で不純物を取り除くことで、純度の高い、真っ白なワックスを得ることができるのです。
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