ゼロベースからの化粧品の品質管理【第70回】
―リスクアセスメントの視点から衛生管理について考える―
化粧品製造所において、衛生管理は立ち上げ初期から最優先で着手される基本事項であり、技術的知見の蓄積や教育体制の整備も比較的進んでいる領域であると認識しています。
しかしながら、実際の現場におけるルール策定のプロセスを詳細に観察してみると、本来想定されるべき品質リスクが必ずしも明確に特定されていないケースが見受けられます。
その結果、机上の「こうあるべき」という固定観念や他社事例の安易な踏襲に基づいた、実効性の乏しい「無駄なルール」や「過剰な運用」が放置されている実態を、最近あらためて目の当たりにしました。
そこで本稿では、化粧品GMP(ISO 22716)の観点から、衛生管理のあり方について根本から再考してみたいと思います。
化粧品は医薬品とは異なり、原則として完全な無菌性が要求される製品ではありません。しかし、製品の安全性と品質の確実な確保を底通する基盤こそが衛生管理であり、「製品品質は衛生管理から始まる」と言っても決して過言ではありません。したがって、微生物汚染および異物混入に対する適切な管理の徹底は、製造管理における極めて重要な柱となります。
さらに重要な点は、微生物汚染や異物混入といった品質欠陥の多くは、出荷前の最終製品試験のみでは完全に検出することが難しく、市場流通を開始した後に初めてクレームや回収問題として表面化するケースが少なくありません。
このため、ルールを守っていることのチェックに止まるのではなく、原材料の受入から製造・包装・出荷に至る製造工程全体を通じて汚染リスクを適切に制御し、科学的根拠に基づいた「予防的管理」を現場で実践していることが極めて重要となります。
1.現場で展開されている衛生管理に対する疑問(事例と考察)
現在、多くの製造現場で運用されている衛生管理ルールの中には、その目的や根拠に照らして疑問を感じざるを得ないものが存在します。以下に代表的な事例を挙げます。
事例1:充填室への入室前、無塵帽を着用した状態で粘着ロール(コロコロローラー)を使用し、着衣した頭部から足首に至る全身を拭い取るよう定めている。
事例2:充填室への入室前、タイマーで正確に2分間計測しながら石鹸を泡立てて手を洗い、その後に流水で洗い流す手順を指示している。
事例3:製造エリア内への立ち入り時に無塵服への着替えを義務付けているが、充填室と仕上げ・包装室の間は同一の作業服のまま自由に行き来が可能となっている。ただし、充填室へ入室する直前には粘着ロールで全身を拭い取ることがルール化されている。
事例4:屋外と直接つながる出入口の室内側に、靴底用の粘着マットが設置されている。
事例5:充填室および包装・仕上げ室内での作業時には、一律でゴム手袋の着用がルール化されている。
事例6:秤量室、調合室、充填室の室内では防護ゴーグルの着用が必須とされており、眼鏡着用者も眼鏡の上から重ねてゴーグルを装着する運用となっている。
事例7:バルク製造に使用する製造用水について、微生物汚染を防ぐ目的で前日に80℃まで加熱殺菌し、夜間にそのまま自然放冷して常温近くまで下がった水を使用している。
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