薬事屋のひとりごと【第11回】
開発企業を募集する医薬品
筆者が気になる通知をひろいあげて、ひとりごとをお伝えするシリーズです。ひとりごとは読み流していただき、読者の皆さんが通知をお読みの上、しっかり内容を把握いただくと助かります。
今回は、猫と深い関わりがある寄生虫「トキソプラズマ」についてのひとりごとです。 きっかけは、厚生労働省が公開している「医療上の必要性が高い未承認薬」のリストでした。このリストの中で、「トキソプラズマ脳炎を含む重症トキソプラズマ症の治療および再発予防」の薬にだけ、開発を申し出る企業がありませんでした。
そのトキソプラズマについて調査すると、実は私たちの身近に潜んでいました。厚労省は、食肉や生肉の生食が感染源になるとして、中心部まで十分に加熱するよう注意喚起を行っています。また、猫のフンに汚染された土壌や野菜などを通じて口から感染(経口感染)することもあります。特に注意が必要なのは妊婦で、初めて感染すると胎児に「先天性トキソプラズマ症」を引き起こすリスクがあるためです。
なぜ「猫」なのか?トキソプラズマのライフサイクルには、2つの増殖モードが存在します。ヒトやネズミ、豚などの体内では、ひたすら自分のコピーを増やす「無性生殖」を行い、脳や筋肉に「シスト(休止状態の塊)」を作ります。一方、猫科の動物の体内でのみ「有性生殖」を行い、オスとメスの役割を持つ細胞が合体して「オーシスト(卵のようなもの)」を作ります。これが猫の便とともに外へ排出され、新たな感染源となるのです。
長らく「なぜ猫の腸内でだけ有性生殖が起きるのか」は大きな謎でしたが、2019年の研究でついにその理由が判明しました。一般的な哺乳類は腸内に「デルタ6-デサチュラーゼ(D6D)」という酵素を持ち、食事から摂取したリノール酸を分解します。しかし、猫科の動物だけは進化の過程でこのD6D活性を失っているため、腸内に分解されないリノール酸が非常に高濃度で蓄積されます。トキソプラズマはこの高濃度のリノール酸を検知することで「ここは猫の体だ!」と判断し、有性生殖のスイッチを入れていたのです。
さらに興味深いのは、トキソプラズマが宿主の行動を「操作」するという説です。2022年に発表されたイエローストーン国立公園での26年間にわたるハイイロオオカミの調査が驚くべき事実を明らかにしました。
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