【2026年5月】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~
執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話」
第27話:品質リスクへの対応の基本は何か ― 持続性確保のための是正と予防を軸とした対策 ―
・要約
品質リスク対応の本質は、是正と予防を両輪として機能させることに加え、逸脱発生時に影響を最小化できる運用設計をあらかじめ組み込む点にあります。逸脱事象は影響度評価に基づいて優先順位を明確にし、迅速かつ適切に対応することが重要です。また、CAPAなどの仕組みは制度として整備するだけでは不十分であり、教育訓練を通じた現場定着と継続的改善によって初めて実効性を持ちます。さらに、個々の特性を踏まえた役割配置も、リスク対応力を左右する重要な要素となります。
・本文
本稿の中心的な論点は、品質リスク対応において「影響度評価に基づく迅速な意思決定」と「予防と影響最小化の設計」がいかに重要であるかという点にあります。
戦争や地政学的リスクは、企業のリスク管理の枠組みを超える問題です。例えば中東情勢では、停戦合意がなされたとしても依然として不安定な状況が続いています。このような現実は、どれほど精緻なシステムを構築しても制御しきれない領域が存在することを示しています。ただし、戦地以外の地域で日常を営む限り、あらゆるリスクへの備えが重要であることに変わりはありません。
先日、YouTubeでパガニーニのバイオリン協奏曲を視聴していた際、演奏中に弓の毛が次々と切れていく場面に出くわしました。通常であれば動揺しても不思議ではない状況ですが、ソリストは冷静さを保ち、演奏を続けていました。これは軽微なトラブルのように見えますが、もしバイオリンの弦そのものが切れていた場合には、演奏中断につながる重大なリスクになります。
実際、オーケストラの現場では、リスクの影響を最小化するための仕組みが存在します。例えば、コンサートマスター(首席奏者)の弦が切れた場合には、直後の奏者が自身の楽器を差し出し、さらに後列へと順次リレーしていくことで演奏を継続する体制が取られています。これは、事象発生後に被害拡大を抑える「事後対応設計」の一例です。
一方で、ソリストの楽器にトラブルが発生した場合には、他の奏者による代替や補完といった対応が難しく、演奏が一時的に停止してしまう可能性があります。このように、代わりが効かない要素が中心にある場合には、その一点の不具合が全体の流れを止めてしまうというリスク構造が表れます。
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