医薬品開発における非臨床試験から一言【第71回】
ICHの進捗と創薬への応用
創薬では非臨床試験により有効性と安全性を確認して、臨床試験を経て、承認申請に向けて開発を進めていきます。この過程の「有効性」、「安全性」、「臨床試験」における指標は「規制要件」であり、グローバルな創薬を効率的に進めるのが基本となります。
主な創薬拠点としては日本・米国・ヨーロッパが挙げられ、承認申請の基準が独自に整備されましたが、創薬のグローバル化に伴い各地域の規制要件を満たすと試験の重複が課題となりました。開発コストの拡大を背景に、安全で有効な新薬をより早く提供するため、医薬品承認審査の合理化と標準化が必要となり、1990年4月に世界各国の規制当局が連携したICHの活動が発足しました。
ICHとは、International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議)の略称です。日本の場合、規制当局(厚生労働省、国立医薬品食品衛生研究所、PMDA(医薬品医療機器総合機構)等)と製薬業界(製薬協、東薬工、関薬協等)の代表者が協働して担当し、医薬品規制に関するICHガイドラインを科学的・技術的な観点から作成する会議に参加しています。
ICHガイドラインはQ・S・E・Mの4つに分類され、Quality:品質、Safety:安全性(非臨床)、Efficacy:有効性(臨床)およびMultidisciplinary:複合領域(品質・安全性・有効性の複数領域)に分かれています。ICHの使命は、限られた創薬資源を有効に活用しつつ、安全性・有効性および品質の高い医薬品が確実に開発し上市されるように、より広範な規制調和を世界的に目指します。総会(Assembly)にむけて、管理委員会(Management Committee)と専門家がガイドラインの議論を行う各作業部会(EWG:Experts Working Group)等から成り立っています。
EWGでは規制当局と製薬業界が協働して規制要件の着地点を話し合っています。規制とは上意下達ではなく、現場(製薬業界)の考えを規制側が理解して、両者でベストアンサーに仕上げます。ICHは世界中の創薬の知恵を集める会合と言えます。
これまで議論したICHガイドラインを具体的に取り上げます。
GLP試験でのトキシコキネティクス(TK)は、1996年のICH S3A「トキシコキネティクスに関するガイダンス」が基本になります。そして2010年のICH M3(R2)「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」でTK試験の実施タイミングが示されました。
「トキシコキネティクス」(TK)が毒性試験での薬物の曝露を示し、「ファルマコキネティクス」(PK)が薬物動態の曝露を示します。ICH S3Aガイダンスでは毒性試験に使用した動物あるいは同様の条件下にある動物から採血して薬物濃度を分析することで、薬物による全身的曝露の状況を明らかにし、毒性試験結果と合わせて、臨床での曝露からヒトでの安全性評価を考えます。またTKから得られた結果は、毒性試験での動物種の選択や用量設定にも利用できます。
吸収、分布、代謝、排泄など薬物のPKデータは、曝露の変化を説明するのに役立ちます。一方、TKデータは毒性試験の条件下で被験薬物の変化に焦点を合わせています。毒性所見をTKのみで説明することが難しい場合は、薬理やPKも加えた科学的な解析が役立ちます。
TKは非臨床試験プログラムに不可欠な構成成分であり、ヒトでの安全性を評価し、毒性試験の理解や臨床試験データとの比較に役立ち、得られた毒性知見の価値を高めます。またTKは臨床で試みることが不可能な高用量での曝露と毒性所見を科学的に検証でき、臨床所見の安全性、あるいは安全域の推定ができます。
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