ラボにおけるERESとCSV【第131回】

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(101)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■ GGGGG社 2023/11/6
施設:OTC工場

■ Observation 1
GCを調査したところ、2023年に少なくとも2つのロットにおいて繰り返し分析があった。
2023/1/21  初回GC分析
2023/1/21  繰り返しGC分析
2023/1/23  再度の繰り返しGC分析

2023/10/18  初回GC分析
2023/10/19  繰り返しGC分析

繰り返し分析の理由は記録されておらず、繰り返し分析の結果だけがOTC製造記録に記載されていた。

★解説
GMPにおいては、得られたデータはすべて記録し、得られたデータを棄却する場合にはその正当性を記録しなければならない。同じサンプルに対し繰り返し分析がなされていたとのことである。期待値に入らなかった場合、期待値に入るまで繰り返し分析を行ったものと思わる。

期待値に入らなかった場合の処理は以下に紹介するFDAおよびMHRAのOOSガイダンスを参照するとよい。

OOS(Out Of Specification 規格外)が発生した場合の処理が不適切であると、不都合事象の隠蔽や良いとこ取り操作を疑われデータインテグリティ指摘を受けてしまう。FDAは「Guidance for Industry, Investigating Out-of-Specification (OOS) Test Results for Pharmaceutical Production」においてOOS処理のガイダンスを示している。このガイダンスにはその根拠法令(連邦食品・医薬品・化粧品法、cGMP)も記載されている。またFDAのOOSガイダンスを補足すべくMHRA(英国医薬品庁)が発出したOOS/OOTガイダンス「Out of Specification & Out of Trend Investigations」は、フローチャートや事例により具体的な処理ステップを表示しており大変判りやすい。これらのガイダンスを参照し、適切なOOS処理手順を策定すべきである。
•   FDA 「Guidance for Industry, Investigating Out-of-Specification (OOS) Test Results for Pharmaceutical Production」
https://www.fda.gov/downloads/drugs/guidances/ucm070287.pdf
•   MHRA「Out of Specification & Out of Trend Investigations」
https://mhrainspectorate.blog.gov.uk/2018/03/02/out-of-specification-guidance/

 
★解説 FDA OOSガイダンスの抜粋概要
cGMP §211.192はOOSテスト結果を必ず調査するよう求めている。
➢ その調査の目的は、OOSとなった原因を確定することである
➢ OOSとなった原因を以下のどちらかに切り分ける
✓ 測定における異常
✓ 製造における異常
➢ OOSを理由としてバッチが棄却されたとしても、同一品目の他バッチあるいは他品目にOOS結果が関連していないか調査する必要がある
➢ 規制(§ 211.192)は以下を求めている。
✓ この調査は記録すること
✓ 調査記録には結果とその後の対応を含めること
本ガイダンスの対象はOOS結果であるが、多くの部分はOut Of Trend(OOT)の調査にも役に立つ。
 
ラボにおける初期調査において;
➢ ラボデータの正確性を初期評価すること
✓ 可能であれば、テスト調製サンプルを廃棄する前に初期評価を行うこと
✓ テスト調製サンプルには、混合試料や単一試料を含む
✓ テスト調製サンプルがあれば、ラボエラーもしくは機器異常に関する仮定を調査できる
➢ 分析におけるエラーが初期評価において見いだせなかった場合
✓ OOSフル調査を行うこと (フェーズ2:フルスケールOOS調査)
➢ 試験受託機関の場合
✓ 初期評価のデータ、所見、周辺資料を製販業者の品質管理部門(QCU)へ伝えること
✓ 製販業者のQCUはOOSフル調査を開始すること
 
上記の詳細は、ファームテクジャパン2018年2月号において紹介したので参照されたい。
データインテグリティ実務対応の留意点 その3
FDAのOOS調査ガイダンス概要とデータインテグリティ対応
Vol.34 No.2(2018)

 
なお、当ガイダンスは2022/5に16年ぶりに改定された。
  https://www.fda.gov/media/158416/download
その改定のポイントを以下にまとめる。
➢ 些細な文言の修正がなされた
Quality Control UnitがQuality Unitに変更された
(品質管理部門→品質部門)
➢ Outlier(外れ値)はOOSとは切り離して取り扱うよう変更された
➢ 結果を平均する試験法における個々データに対するOOSの考え方が追記された
 
Outlierとは;
✓ 統計学において、他の値から大きく外れた値のこと。測定ミス・記録ミス等に起因する異常値とは概念的には異なるが、実用上は区別できないこともある。(Wikipedia)
✓ データが極端に大きいまたは小さいデータであり、かつ少数のデータのことを外れ値と呼ぶ。外れ値は統計解析を行う上で大きく影響することもあり、解析から除外した方が良いという考えがあった。(日本理学療法学会連合)
 

■ Observation 2
GCの監査証跡をレビューする手順書がない。QCの職員にインタビューしたところ、監査証跡はレビューしていないとのことであった。

 

 

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます