QAを助けたい【第1回】
小野薬品工業株式会社で長年GMP監査に従事され、業界活動としては日薬連・製薬協・関薬協・大阪府薬事審議会でご活躍の他、厚労科学研究班にて各種ガイドラインの研究、またGMP監査マニュアルの作成に携わられた伊井様と、株式会社シーエムプラスの田中が対談を行いました(実施日:2025年9月12日)。
注記:本記事は、対談の内容を基に、GMP・GQPに関する専門用語や日本の薬事規制の歴史的背景を踏まえ、校正・加筆修正を行ったものです。一部、発言の順序を入れ替えるなど、読解性を高めるための編集を行っております。
本対談では、製剤研究から総括製造販売責任者まで、医薬品ライフサイクルを通じた伊井様のご経験を基に、医薬品の品質保証のあり方について深く掘り下げました。
プロフィール
伊井 義則 様: 小野薬品工業株式会社にて、処方設計、治験薬GMP体制構築、GMP監査、PQS体制の構築、法令遵守体制の整備等に従事。その間、治験薬品質管理者、総括製造販売責任者を務められた他、日薬連、製薬協、関薬協等の業界活動でもご活躍され、現在はGMP/GQP/QMSコンサルタントとしてもご活動されています。
田中 良一: 株式会社シーエムプラス(元 京都府健康福祉部薬務課)。本対談の進行役を務めます。
「隣の部署の大変さを知る」ことから始まる、品質保証
田中: 本日はお忙しい中ありがとうございます。私、株式会社シーエムプラスの田中良一と申します。本日は、長年にわたり医薬品業界の品質保証分野でご活躍されてこられた伊井様をお迎えし、特別対談を実施いたします。
伊井様と私は、厚生労働科学研究のGMP監査マニュアルを作成した時の研究班でご一緒させていただいて以来、色々と勉強させていただいております。どうぞよろしくお願いいたします。
伊井様: よろしくお願いいたします。
田中: 伊井様のご経歴を拝見しますと、1985年に大学院を卒業後、製薬メーカーにご入社され、最初は研究部門に配属されたのですね。
伊井様: はい、そうです。経口剤の製剤設計を12年ぐらいやっておりました。
田中: その後、治験薬関係の業務に?
伊井様: そうですね。当時、治験薬GMPが施行されるという情報を得まして、治験薬GMP体制を立ち上げないといけないと提案したところ、担当することになりました。
その結果、治験薬GMP体制を一から立ち上げることになり、そこから品質保証業務に従事することになりました。
田中: なるほど。研究畑から品質保証の道へ進まれ、その2年後には生産本部でGMP監査の長に就任されています。
伊井様: 治験薬GMP体制を構築することができましたので、それを見て今度は生産本部の方から「ぜひ生産部の手伝いをしてほしい」という話を受けまして、生産本部に移りました。
田中: その時からGMP監査がメイン業務になったのでしょうか。
伊井様: はい、すぐに委託先や原材料メーカーを専門に監査する部署に配属されました。
田中: 2006年に監査部の部長になられるまで、そしてなられてからも監査業務を?
伊井様: そうですね。基本的な業務としては、やはり監査が8割ぐらいを占めておりました。トータルで言いますと、20年近く監査業務をしていたことになります。
田中: それはすごいですね。そして2008年に信頼性保証の長、総括製造販売責任者(以下、総責)に就任されます。品質保証責任者のご経験は?
伊井様: 品質保証責任者の経験はなく、監査部門の長をしておりまして、そこからいきなり、という感じです。普通は品質保証責任者があって総責なのですが、直接就任しました。
田中: 総責の業務は何年ほどされていたのですか?
伊井様: 総責は10数年させていただきました。
田中: ご退職されるまでですか?
伊井様: いえ、退職する5年ぐらい前までです。社長から「ずっと総責をやっていてもダメだろう。次の総責を育てなければならない」と言われまして、5年ぐらい前に十分な引き継ぎの後、別の人に総責になってもらいました。
田中: 総責を退かれた後も、品質保証部門のサポートをされていたのですね。
伊井様: はい、品質保証部、特にGQPと総責のサポートを行っていました。また、当時、薬機法の改正で法令遵守体制の整備が求められておりましたので、法令遵守体制の整備と手順書の制定をさせていただきました。
田中: 法令遵守体制の構築は本当に大変ですよね。
伊井様: はい。 法令遵守体制の整備には、社内関係部門と社長等の役員の方々に、整備の趣旨・目的を正確にご理解いただく必要がありました。そのために、先ずは、法令遵守体制の整備のために組織横断的な検討部会を開催し、自社における法令遵守体制の仕組み並びに法令遵守体制に関する手順書を作成しました。その後、社長等の役員の方々向けの説明資料を何度も見直して、説明のための会議を複数回、開催し、社長等から叱咤激励を受けながら、自社法令遵守体制と関連手順書を承認いただきました。手前味噌になりますが、研究所の頃は製剤設計に従事し、その後に治験薬GMP体制を作り、生産本部ではGMP体制の再構築を、そして品質保証本部ではGQP体制、そして前職での最後の大きな課題であった法令遵守体制を整備させていただきました。そういった意味では、今から思えば、自分自身が製品のライフサイクルに従って仕事をさせてもらえたのは、非常にありがたい経験でした。
田中: まさに伊井様ご自身のライフサイクルですね、素晴らしいです。
さて、本題に入りますが、最近の傾向としてGQP業務に携わる方がGMPをあまりご存知なかったり、また後発医薬品の問題でも見られるように、開発や技術移管の連携がうまくいかず、安定性モニタリングでOOSが発生しているケースがあります。伊井様のように研究開発のご経験があることは、その後のGMP・GQP業務に非常に活きてくると思いますが、過去を振り返られて「あの経験があってよかった」と感じる点はございますか?
コメント
/
/
/
コメント