最新コスメ科学 解体新書【第22回】
ピッカリング エマルション④ これからの可能性
この9月、イギリスのブリストルで行われた界面化学の国際学会ヨーロッパコロイド界面国際会議ECISに参加して、われわれが開発した触覚センシングシステムでスキンケアをした皮膚の評価をした最新の成果を発表しました。のんびりした歴史ある港町で飲むビールはやっぱり最高でした。
今回の学会で、思い出深い出会いがありました。Hull大学のBinks教授です。わたしが会社で「粉体乳化」の研究を始めた2000年頃、ほとんど関係する情報が見つからない中で、唯一、固体粒子で安定化されたピッカリングエマルションについて論文を発表していたのがBinks教授でした。彼は固体粒子が水と油の界面に吸着するための条件を物理化学的な観点から検証し、現在の材料科学分野で起こったムーブメントの基盤を築いた中心人物だったのです [1]。彼とは何度かメールをやり取りしたことはあったものの、直接会ったことはなかったのでした。
そんな彼と、今回、学会会場でばったりと一緒になりました。ホテルのピロティ―でのコーヒーブレークで、コーヒーを注いでいたところ、何十度も写真で見たことのある顔が!思わず「すいません、Binks教授ですか?」と声をかけたところ、「おー、Yoshimune?」ちょっと驚いた感じでしたが、手を差し伸べてきました。「何十年もあなたの論文をよんできましたよ」と話したところ「もちろん、わたしもあなたの論文を読んできたよ。2002年か2003年のたくさん相図を書いた論文は面白かった。」2002年と2003年の論文は、私が会社でひとつひとつサンプルを作り、キャラクタリゼーションしながらデータをとり、論文とした、いわば界面化学分野でのデビュー作でした。その後、最近の研究についての情報交換。すれ違いが続いていた研究者と再会を約して別れて、感慨深いひと時となりました。
世界で初めて固体粒子で安定化されたエマルションについて報告されて百数十年、Binks教授やわれわれの界面化学的な検討が始まって二十数年の間に、化粧品・食品・塗料等の分野で応用が進められてきました。さらに近年では材料化学的な取り組みが進み、思いがけない展開が期待されています。まず、化粧品業界で最も注目されているのが、天然由来のエマルション安定化剤としての利用です。この十年来、世界中の化粧品メーカーでは、持続可能な世界の構築に貢献するために、天然由来で環境に対する負荷が低く、再活用も可能な材料への切り替えが進んでいます。そんな中で、注目を集めているのが直物由来の固体粒子を利用したピッカリング製剤なのです。これまでに、南米アンデス山脈の高地で数千年前から食用に栽培されている擬穀類キヌアから単離されたデンプン顆粒を疎水化した粒子、木材などの植物に含まれるセルロースをナノメートル単位まで微細化したセルロースナノファイバー、植物の細胞壁の主成分であるリグニンを用いたエマルション製剤が開発され、スキンケア・ヘアケア・メイクアップ化粧料への応用が提案されています [2-4]。
コメント
/
/
/
コメント