製造業に令和のゴールドラッシュが静かに始まっている【第5回】
第5話:仮想空間が働く場所になる日
── 「現場に出向く」から「現場に入ってくる」へ
プロローグ:シン三現主義
「現場行ってきます」
「現場入りまーす」
どちらも現場に向かう言葉である。だが、聞こえてくる空気が違う。
前者は製造業やインフラの世界で、プラントへ、工事へ、点検へと物理的に移動するときの挨拶である。
後者は番組制作や舞台、ライブで使われる言い回しで、「到着」ではなく「役割が起動する境界」を越えた合図である。
プラントは365日そこにあり続ける。だから、これまでは「行く」で足りた。
しかし今、その前提が変わり始めている。
ARグラスを装着し、デジタルツイン上でプラントを俯瞰する。
身体は動かないのに、意識は確実に現場の中を巡回している。
現場が、開いたり閉じたりする「認知空間」になりつつある。
ここ数年で、身体の外側にあったデジタルが、内側に入ってくる速度が増した。
象徴的なのが、思考でデジタル機器を操作する試みの進展である。
人の意思が、キーボードもマウスも介さずに画面へ届き始めた。
「現場に行く」だけでなく、「現場に入る」時代の入口に、私たちはもう立っている。
シン三現主義とは、現場を「場所」ではなく「同じ状況を共有できる状態」として捉え直すことだ。
現物はモノではなく、「いま見えている情報が何から来たか」が辿れること。
現実は体験ではなく、「判断がいつ・なぜ変わったか」が残ること。
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防護メガネがスカウターになる
現場には、ほぼどこでも義務化された基本装備がある。
ヘルメット、安全靴、安全帯、そして防護メガネ。
軽量化されたりスタイリッシュになったりはしても、役割そのものは長らく変わってこなかった。
その防護メガネが今、スマート防護グラスとして一皮むけようとしている。
視界に点群データが重なり、配管の温度が表示され、過去の点検履歴がポップアップする。
目の前のバルブに視線を合わせれば、型番、交換履歴、次回メンテナンス予定が浮かび上がる。
それは、保全のための「ヘッドアップ表示」だ。
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