医薬品開発における非臨床試験から一言【第70回】
毒性試験の取り組みと研究連携
医薬品開発において、有効性、安全性、薬物動態は三位一体の研究連携が必要です。それぞれが他を補完し、全体のバランスが取れた化合物に進化できると、使用しやすく安全な医療を提供する医薬品となります。今回は、毒性試験の取り組みと研究連携についてまとめます。
有効性を評価する薬理試験と、安全性を評価する毒性試験は、生体に対する「作用」の面で表裏になり、有効濃度域では薬理作用と呼ばれ、有害反応量になると毒性用量と呼ばれます。そして、毒性試験での薬物動態はトキシコキネティクス(TK:Toxicokinetics)と位置づけられGLP試験として実施されます。一方、薬理試験では薬力学(PD:Pharmacodynamics)により薬物の生体内での曝露と作用の関係を表します。つまり、薬物動態(PK)を指標に、安全性はTKで、有効性はPDで示します。
毒性試験を理解するために、問題となる用語について取り上げます。
長期投与の毒性試験に「がん原生試験」があります。ここでは「癌」ではなく「がん」の表記が用いられています。国立がんセンターも平仮名表記です。これは、厳密には、悪性腫瘍を「がん」と呼び、がんの中で、非上皮組織由来を「肉腫」、上皮組織由来を「癌」と呼びます。従って、悪性肉腫全体を扱う動物試験は「がん原生試験」となり、臨床は「国立がんセンター」のように表記されます。がん種は、白血病、骨肉腫、胃癌、肺癌、すい臓癌等に表記されます。
非臨床の生殖発生毒性試験は、妊娠可能な女性の臨床試験への組み入れを可能とする試験で、雌受胎能試験と胚・胎児発生に関する試験が求められます。さて「胚・胎児」の用語について、動物では生物学的に「胎仔」と表記しますが、医薬品開発での記載は「胎児」となります。動物のfetus の日本語は、実験動物関連領域では、従来、慣例的に仔(シ)が用いられていました。しかし、近年は医学のみならず動物学でも胎児(ジ)とされており(文部省学術用語動物学編、1988 年)、動物愛護の観点からもヒトと動物の区別をせず、医薬品開発のための動物実験では胎児とします。
「曝露」と「暴露」は、どちらを使用すべきでしょうか。医薬品開発での日本語としては何れでも結構です。語彙から、私は「曝露」を推奨しますが、暴露も使用されています。ICH-S3(トキシコキネティクス(毒性試験における全身的暴露の評価)に関するガイダンス、1996年)のように、冒頭の通知の名称と要約部分は「暴露」ですが、続く本文は「曝露」で統一されています。ICH-M3(R2)(医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス、2010年)では「暴露」です。ただし、これを含めて産官で編集した解説書(医薬品非臨床試験ガイドライン解説)では「曝露」に統一されています。
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