【2025年10月】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

 

第20話:共感と共鳴

先日(2025年8月中旬)、奈良県立万葉文化館で『「天翔あまかける飛鳥」-烏頭尾精うとおせいの世界-』という日本画展を観る機会を得ました。写実でもなく、抽象画でもない独特の世界観の日本画で、大半は鳥をモチーフにしたものです。ほとんどが大作で、大きいものは横幅が2mを超えるものもありました。作者は地元明日香の出身で現在93歳、今も創作を続けておられる現役の画家です。当日、たまたま会場に来られていて少しお話をする機会を得ました。これまでいろいろな絵画展に足を運んで来ましたが、展示されている絵画の作者にお目に掛かり、しかもご本人と会話したことなどこれまで経験がありません。

絵を見た瞬間は、どちらかというと好みのタイプの絵ではないという印象を持ちましたが、掲示されている画家の詳しい経歴を踏まえて順路に従い鑑賞していくうちに、少しずつこの画家独特の世界観を感じることができました。緑など一つの色を基調に濃淡を巧みに使い分け、キャンバス全体に調和と安定感を感じさせ、それが見る側に不思議な安らぎを与える、そんな印象でした。展示の絵の半分ほどを見終えたとき、ふと、話し声の聞こえるほうに目をやると、夕方の閑散とした会場のソファで学芸員と思しき女性に話されている男性が目に入り、掲示されている写真の画家の風貌から、この高齢の男性が画家その人であると確信しました。

その後、中央の展示台に集められた習作やデッサンをガラス越しに見ていたとき、ちょうど女性に付き添われるように私の傍を通られ、軽く会釈をすると、画家は立ち止まり私がどこから来たかと問われました。このせっかくの機会を逃さず少し質問をさせていただくと、画家は小さい声で、しかし、しっかりとした眼差しで自分の絵に対する考えを説明されました。杖を持たれていたので長話しは無用と判断し、お礼を言って話を終わりにしましたが、この一瞬の短い時間にとてつもなく気高い学びを得たような気持ちになり、不思議と心が満たされました。

鳥や、飛鳥・藤原・平城の古都をテーマとする創作活動の傍ら、高校・大学で教鞭をとり、また、要請によりキトラ古墳の朱雀など四神を描くなどたゆまない活躍をされ、今なお活動を続けておられるこの画家に何か不思議なパワーや執念のようなものを感じ、共感し、共鳴を覚えました。当初は作品そのものへの関心がさほどでなくても、その作家の生きざま・人物像を少し理解し、これと合わせて作品を観たとき共感や共鳴を得ることができるということを改めて体験しました。

結局、人がある作品から影響を受けるときは、作品そのものからだけではなく、その作者の生きざまや人生の軌跡を知ることにより作品への理解が深まり、時に心が揺さぶられ(感動)、“共感”や“共鳴”につながっていく。このことは、絵画などのアート作品だけではなく、文学、楽曲、科学研究など様々なことに共通するのではないでしょうか。ちなみに、この絵画展に先立ち、7月半ばにゴッホ展を観たときにも同じような感慨に浸ったのを覚えています。

 

 

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