医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第69回】
ナノ材料の生物学的安全性評価
今まででおおよその医療機器に関する生物学的安全性評価の概要が説明できたのではないかと勝手に思っておりますが、いかがでしょうか。
ただ、今回話題にするナノ材料に関しては、あまりきちんと触れてこなかったように思いますので、少し長くなりますが、もう少しお付き合いいただければと思います。
ナノ材料とは、1~100 nmの粒子のことを指します。カーボンナノチューブは1~4 nm程度とかなり微細なものですし、ナノシリカ等は数10~100 nmだそうです。ちなみに髪の毛の太さは、70~80 μmのようですので、ナノ粒子は髪の毛の太さの1/700~800という微細なものです。
生体の細胞の大きさは組織によって様々ですが、おおよそ20 μmのものが多く、神経細胞では1 m程度のものもあります。細胞の大きさとナノ材料の大きさを比べたのが下図です。

インフルエンザウイルスやコロナウイルスは100 nmの大きさだそうですので、ちょうど大き目のナノ材料程度です。ウイルスは体内に入ると細胞内に侵入して増殖します。細胞内への入り方は、ウイルス表面の膜が細胞膜と融合、または、細胞膜上の受容体に結合して取り込み作用であるエンドサイトーシスという経路で侵入します。
ナノ材料はインフルエンザウイルスと同程度か、それより小さなものであり、同様に細胞内に侵入する可能性が考えられます。異物を貪食する作用を有するマクロファージ等の細胞の方が、ナノ材料を取り込みやすいことが知られています。ナノ材料が貪食された後、酵素等によって分解されるのか、それとも分解されずに蓄積するのかについては、材料の特性から考えておくべき事項です。
また、重量が0.1 gで直径が1 mmの粒子1個と、同じ密度の物質で直径が100 nmの粒子を0.1 g集めたとしたときの表面積を比べると1万倍にもなりますので、表面に何かを付けて反応させる場合にはかなり有利に働きますし、ナノ粒子そのものが溶出する場合でもかなりの溶出が見込まれます。
このようにナノ粒子には、①微細であるため細胞内に侵入する可能性と、②表面積が大きいことによる溶出量の増加という特徴があります。
ナノ粒子の特徴を生かして、医療機器への応用は今後ますます検討されていくと思いますが、生物学的安全性評価として注意すべきところは何でしょうか。参考になるISO 10993シリーズとしては、ISO/TR 10993-22:2017 Biological evaluation of medical devices ― Part 22: Guidance on nanomaterialsがありますので参考いただければと思います。
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