医薬品開発における非臨床試験から一言【第69回】
創薬研究での薬物動態のあり方
創薬における薬物動態研究を4つに分類すると、以下のようになります。
- 探索的創薬研究:候補化合物の評価に対応し、スクリーニング試験を担当
- 臨床移行研究:臨床移行を目的とした探索的な薬物動態試験を担当
- 臨床薬物動態研究:臨床第Ⅰ相試験から承認申請までの臨床薬物動態を担当
- 承認申請研究:承認申請資料の作成のため委託試験を含む信頼性基準試験を担当
前回は、薬物動態研究者が担当する試験の実施タイミングを示しました。創薬研究では多くの薬物動態試験が実施され、目的に沿って他の分野(毒性、薬理、そして臨床)と共同で研究しています。「くすり」に仕上げるためには、臨床で有効性を示す事が必要です。薬理効果があること、安全であること、臨床で確実な有効性が検証できること、これらについて薬剤との相関性が証明されていること。などが創薬研究の目的になります。
「動態」とは、薬物の体内動態を明らかにするPK(Pharmacokinetics)と、毒性試験で薬物の曝露量と毒性作用の関係を確認するTK(Toxicokinetics)になります。さらに薬力学のPD(Pharmacodynamics)が加わります。実験動物を用いたin vivoスクリーニング動態では、PKを指標に薬物動態を考え、TKを指標に安全性の最適化を目指し、PDから薬理作用との関連を探ります。
この中で薬物動態研究はどのような立場でしょうか。『安全であること』では、毒性試験において、トキシコキネティクス(TK)担当者はGLPの設定で血中薬物濃度を分析し、安全性との関係を精査します。TKは未変化体に注目しますが、毒性と関係する代謝物の研究も必要です。TKでの用量相関性に注目して、吸収過程の飽和、あるいは代謝過程の飽和などの現象と安全性の関係を評価します。
反復投与で血中代謝物濃度が定常状態に維持されれば、代謝過程における代謝物の作用(影響)は濃度相関と仮定できます。しかし、反復投与の中で代謝物濃度が徐々に減少すれば代謝酵素に対して酵素量の誘導作用を推定し、逆に代謝物濃度が上昇すれば酵素阻害の可能性があります。いずれも薬物動態試験法に完成された確認試験系があり、科学的に誘導/阻害を解明することができます。
薬物動態試験で活性代謝物が見つかると、薬物動態担当者は薬理学的プロファイルを確認し、その代謝物が親薬物と同質の薬理作用(On-Target効果)を持ち、活性が親薬物と比べ同等又は低い場合は、親薬物の毒性試験で安全性の情報が得られていると考えます。しかし、活性代謝物の持つ薬理活性が親薬物より強い場合や、異なる薬理作用(Off-Target効果)を有すると注意が必要です。該当する薬理作用から想定される毒性は何か、ヒトで十分な曝露があるか、活性代謝物の血中濃度推移にヒトと動物で差があるか、等の課題に取り組みます。
臨床移行を目的とした探索的な薬物動態試験では、創薬研究の本質から考えて、再現性のある試験を心がけます。創薬過程では、さまざまなスクリーニング試験により、候補化合物を効率的に絞りこむ研究を行います。しかし、試験の方法論と判定基準は企業固有のノウハウがあり、なかなか一般論は難しいところです。ここでは、主に代謝物の安全性評価においてin vitro試験によるスクリーニング評価を取り上げます。
ヒトで高曝露の代謝物が検出され安全性を科学的に評価する課題に対して、代謝物標品の合成困難は評価しなくてよい理由にはなりません。幾つかの代替的な評価方法が考えられます。
- 細胞画分、肝細胞などで代謝物を生合成し、抽出し精製する
- 入手可能な多種の実験動物で、肝以外も含めて、in vitroでの代謝を確認する
- 高用量の動物投与で当該代謝物の曝露を確認する
- 持続静脈内投与で曝露量(AUC)を増やす
- 健常人の臨床試験で倫理的に許される多量採血により、代謝物を精製し標品化する
このように代謝物の検出と単離には多くの手段があり、分析のための標品合成に繋げます。高曝露での評価を科学的にどのように捉えるかが、創薬過程で安全性を示す大切な場面となります。
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