医薬品開発における非臨床試験から一言【第56回】

 

臨床薬物相互作用試験②

非臨床試験では薬物相互作用(DDI)のメカニズムと安全性のリスクを中心に研究が進められました。これらの情報を基に、医療現場での安全な治療法を定めるために、臨床薬物相互作用(臨床DDI)試験が実施されます。臨床DDI試験は、健康志願者等を対象に、第III相試験開始前に実施されます。また、臨床用量の被験薬、指標薬、阻害薬、誘導薬を使用します。

In vitro試験又は臨床薬物動態試験から、被験薬のP450代謝経路に関与する薬物代謝酵素阻害薬を選択した臨床DDI試験の場合を取り上げます。この臨床DDI試験では、相互作用を受けやすい基質を経口投与したとき、AUC(薬物血中濃度時間曲線下面積:Area under the curve)に及ぼす阻害薬の影響の程度を3区分に分けます。①強い阻害薬:AUCを5倍以上に上昇させる阻害薬、②中程度の阻害薬:AUCを2倍以上5倍未満に上昇させる阻害薬、③弱い阻害薬:AUCを1.25倍以上2倍未満に上昇させる阻害薬。

阻害の程度を念頭に置いて、臨床DDI試験を構築します。臨床DDI試験では、可能なら、強い阻害薬の使用が推奨され、被験者の安全性に配慮して実施します。しかし、安全性の観点から、強い阻害薬を使用できない場合は、中程度以下の強さの阻害薬を用いるなど、ケースバイケースで検討します。

強い阻害薬による臨床DDI試験で用量調整が必要なときは、臨床での併用の可能性を考慮し、他の阻害薬も検討します。この場合、第II相又は第III相臨床試験での併用、あるいはモデリング&シミュレーションによる評価も可能です。被験薬の主要な薬物代謝酵素がガイドラインに記載がない場合、代謝の寄与を考えて、併用薬を用いた阻害試験などを考えます。

被験薬が、P450以外の代謝酵素の阻害を受けるDDI、あるいはトランスポーターで輸送される過程での阻害によるDDIなども、P450代謝と同様にDDIを評価します。P450以外の代謝酵素あるいはトランスポーターに対する既知の阻害薬を考慮し、臨床DDI試験の実施の可能性を検討します。基本は同様ですが、評価基準が難しいようです。

被験薬が、P450による代謝の誘導を受けるDDIを評価します。In vitro試験又は臨床薬物動態試験に基づき、被験薬の代謝経路に関与する薬物代謝酵素の誘導薬を選択して、臨床DDI試験を実施します。臨床DDI試験における誘導薬の選択では、相互作用を受けやすい基質を経口投与したとき、当該基質のAUC に及ぼす影響の程度により区分されます。①強い誘導薬:AUCを1/5以下に減少させると考えられる誘導薬、②中程度の誘導薬:AUCを1/5から1/2以下に減少させると考えられる誘導薬、③弱い誘導薬:AUCを1/2から1/1.25以下に減少させると考えられる誘導薬。

阻害試験と同様に、用いる誘導薬は、最大の効果を評価するために作用の強い誘導薬を使用して臨床DDI試験の実施が推奨されます。また、臨床DDI試験で検討しない誘導薬は、第II相又は第III相試験での使用、あるいはモデリング&シミュレーションによる評価も可能です。特定の酵素誘導薬との併用投与が必要な場合も、適切な治療法を確立するために、臨床DDI試験の実施が推奨されます。

 

 

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