ラボにおけるERESとCSV【第108回】

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(78)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■ JJJJ社 2022/9/2
施設:製剤工場

■Observation 1
品質部門(Quality Unit)が製造から独立しておらず、QAとQCの責務を全うしていない。
特に:

貴社のGMP規定において役割と責任が以下のように規定されている。

  • QAマネージャー:VPとVRをレビューする
  • バリデーション責任者:VPとVRを承認し、機器を製造へリリースする
    (VP:バリデーション計画書、VR:バリデーション報告書)

バリデーションマスタープランはバリデーション責任者が承認していた。

★解説
VP、VR、およびバリデーションマスタープランを承認していたバリデーション責任者が製造側の職員であったために指摘されたのではないかと推察する。バリデーション関係は、製造から独立しており公正な判断ができる者、たとえばQAやビジネスオーナーが承認するのがよいと思われる。

ISPE日本本部が2023/3/24に開催したGAMP5 第2版のセミナーにおいて、講師のSion Wyn氏は以下の様に言われていた。
欧米におけるVP承認者

  • 全責任を有するビジネスオーナーが第1候補
  • QAは第2候補
  • 技術的要素が強いバリデーションならテクニカルリーダー

一方、国内GMP省令に以下の規定がある。

(バリデーション)
第十三条 
製造業者等は、あらかじめ指定した者に、手順書等に基づき、次に掲げる業務を行わせなければならない。
一 次に掲げる場合においてバリデーションを行うこと。
イ 当該製造所において新たに医薬品の製造を開始する場合
ロ 製造手順等について製品品質に大きな影響を及ぼす変更がある場合
ハ その他製品の製造管理及び品質管理を適切に行うために必要と認められる場合
二 バリデーションの計画及び結果を、品質保証に係る業務を担当する組織に対して文書により報告すること。
 
改正省令公布通知第3の21(1)にこの省令第13条の逐条解説が以下の様に記載されている。
バリデーションの対象となる構造設備、手順、工程等に関して熟知している職員を当該バリデーションの責任者としてあらかじめ指定し、その職責と権限を含めて定めておく
(改正省令公布通知:薬生監麻発0428第2号2021/4/28 課長通知)

 

GMP省令第13条第1項に記載された「あらかじめ指定した者」がバリデーション責任者であると解釈できる。ただし、当局通知には法的拘束力はないので、通知の内容は技術的助言であるととらえるのがよい。

一方、事務連絡「GMP事例集(2022年版)」にはバリデーション責任者に関する事例がいくつか記載されている(GMP13-11~GMP13-15)。これらの事例を以下に示すが、悩ましい内容があるように思える。ただし、事務連絡も当局通知と同様に法的拘束力はなく、GMP事例集の冒頭に「一般的留意事項」として以下の記載がある。

  • 本事例集に掲げる事例はGMPの運用上の参考事例を示したものであり、実際の運用においては、各社主体的に判断しリスクに応じて対応すべきであること。
  • なお、国際整合性の観点、今後新たに得られる知見及び通知の発出等により、適宜見直されるものであること。

事務連絡「GMP事例集(2022年版)」からGMP13-11~GMP13-15を以下に転記するが、その取扱いはGMP事例集における上記の「般的留意事項」に従う必要がある。バリデーション責任者は我が国GMPに固有の職務であるので、海外査察においてその位置づけをQAと製造が独立していことを含め適切に説明できる必要がある。

GMP 13-11
【問】GMP省令第13条第1項の「あらかじめ指定した者」、すなわちバリデーション指針でいう「バリデーションの責任者」たる職員は、当該製造所に所属する者でなければならないか。
【答】製造業者等の職員であれば必ずしも当該製造所に所属する者でなくても差し支えない。ただし、当該職員の責任、権限等をGMP省令第6条第4項の文書及びバリデーションマスタープランにあらかじめ規定し、第19条第1号の教育訓練を行い、その責務を支障なく遂行できるようにすること。
 
GMP 13-12
【問】GMP省令第13条第1項の「あらかじめ指定した者」、すなわちバリデーション指針でいう「バリデーションの責任者」は、製造管理者との兼務としてもよいか。また、GMP省令の他の規定の「あらかじめ指定した者」との兼務とすることは可能か。GMP省令第13条第1項の「あらかじめ指定した者」は、社内組織上の責任者でなくてもよく、特段の資格要件はないと解してよいか。
【答】設問のいずれの兼務についても、他の業務に支障がなく、かつ公正に行える範囲において差支えない。改正省令公布通知第3の21(1)にあるとおり、バリデーションの責任者には、業務の内容を熟知した職員を指定すること。また、当該職員の責任、権限等をGMP省令第6条第4項の文書及びバリデーションに関する手順書にあらかじめ適切に規定し、第13条の業務が円滑に行われるようにしておくこと。

 

 

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