批判されるFDAの海外査察プログラム

2023/10/20 その他関連情報

批判されるFDAの海外査察プログラム

米国議会下院のエネルギー通商委員会は、FDAの海外医薬品査察プログラムを監視しているが、監視小委員会と保険小委員会の二回の公聴会で、FDAの海外医薬品査察プログラムの有効性について懸念を表明している。2023年7月18日、エネルギー通商委員会は、FDAロバート・カリフ長官宛に、インドと中国でのGMP査察について質問状を送付した。
FDAは、インドと中国からの未承認医薬品の輸入を一時的に許可することで、重要医薬品の不足に対処するという決定を下したが、ジェネリック医薬品の約32%、原薬の45%がこの2カ国からのものであることを考えると、安全規制違反を繰り返している外国メーカーからの調達に過度に依存していることを懸念している。すなわち、中国とインドのメーカーが最も多くのFDA警告書を受け取っており、違反には、医薬品中の発がん性物質、データの破棄や改ざん、非無菌製造工程などが含まれている。

コロナ禍により、2020年3月から2022年4月までの間、海外医薬品メーカーに対するほとんどの対面査察が停止された。この書簡によれば、対面査察の代わりに、FDAは遠隔査察などの代替策に頼っていたが、査察が解禁された後でも、パンデミック前よりもはるかに低いレベルでしか対面査察が実施されていない。
ある分析によると、約2,800の外国製造施設のうち、FDAが査察したのはわずか6%で、インド製造業者の査察はわずか3%であった。FDAが中国で実施した査察は、2019年だけでも131件であったのに対し、2020年から2022年の間はわずか40件であった。

懸念を表明しているのはこの委員会だけではない。国防総省は最近、輸入ジェネリック医薬品の品質と安全性を独自にテストし始めると発表した。超党派の政府説明責任局(GAO)も昨年発表した報告書で、FDAの海外査察プログラムを批判し、FDAは「独自の課題」に直面しており、規制違反を繰り返す海外メーカーの責任を追及するには不十分であると指摘している。特にGAOは、FDAの事前告知された海外査察の実施は効果がなく、「海外と国内の査察の同等性に疑問がある」と懸念している。

さらに、中国では最近、厄介な政治的な動きがあった。中国共産党は、すでに広範囲に及んでいる国家安全保障法を再解釈し、国家機密だけでなく、「国益に関連するデータ、資料、品目」にも適用範囲を拡大すると発表した。この法律の新たな解釈は、非常に広範で、当局が国益にかなうと判断すれば、FDAの査察官を逮捕したり、メーカーの記録へのアクセスを遮断したりすることも可能になる。当局はすでに、中国の市場情報収集を専門とする企業の事務所を家宅捜索し、従業員を拘束している。

このような状況に鑑みて、この委員会は22項目にわたる質問をFDAに投げかけ、8月1までの回答を求めている。例えば、

● 食品医薬品局安全・革新法には、賦形剤、原薬、最終製剤の原産地についてFDAがより深く調査するための権限が規定されているが、なぜFDAは原薬や賦形剤の調達先を把握できないという立場をとっているのか?

● FDAは、国防総省が購入するジェネリック医薬品の品質と安全性を独自に試験するという決定に関して、相談を受けたか?

● 現在、何名のFDA査察官が国内査察、海外査察を行っているのか?

● 海外査察の未処理案件の規模はどの程度で、その解消はどのような進捗しているか?

● 2014年から2015年にかけてインドで実施した抜き打ち査察のパイロットプログラムを終了した理由を説明し、今後、抜き打ち査察プログラムを復活させる予定はあるのか、ない場合は、その理由は?

● 過去10年間に警告書を受け取ったインドと中国の施設について、警告書が発行されて以来、どの施設が査察を受け、どの施設が受けなかったのか?

● 中国の国家安全保障法の範囲拡大に対し、中国での査察が継続できるようにするためのFDAの計画は?

● 査察官が拘束され、あるいは中国の医薬品製造施設に対する査察の完了を妨げられた場合、FDAはどのような行動をとるのか?

● FDAは中国で抜き打ち査察プログラムを開始する予定ですか?しない場合、その理由は?

抜粋ですが、アメリカらしくかなり辛辣な質問もあり、FDAがどのように回答したか不明ですが、日本の厚労省やPMDAに同じ質問をしたらどうなるかと考えると、興味の持たれるところです。

医薬品の安定供給と品質保証は二律背反の側面がありますが、医薬品製造企業にとっては避けてはとれない課題であり、少なくとも自社で使用する主原料の品質だけでも、公的機関による査察に頼らず、自らが確認する必要があると思われます。

以上

 

 

執筆者について

中尾 明夫

経歴

株式会社シーエムプラス フェロー。
GMP Platform責任者。
1976年田辺製薬(株)入社。有機合成化学研究、プロセス化学(工業化)研究に従事後、品質保証部長、取締役生産本部長、常務取締役経営企画部長を歴任、合併後、田辺三菱製薬(株)常務執行役員製薬本部長。
FDA査察対応やPDA活動を通じ、「GMPはサイエンス」と確信。GMP教育の洗練化を目指す(株)シーエムプラスの企業理念に共感し、2011年(株)シーエムプラスに入社、2012年5月取締役副社長就任。2018年4月より現職。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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