新・医薬品品質保証こぼれ話【第7話】

2022/07/15 品質システム

資格と力量について。

資格と力量

昨年(2021年)2月、東京のクリニックにおいて、必要量の100倍のモルヒネが投与され高齢の患者が死亡した医療過誤に関し、先般、関係した医師と薬剤師が業務上過失致死の疑いで書類送検されました。本件は医師の処方ミスを薬剤師が見過ごし、誤って患者に投与された典型的な事案であり、過去にも抗てんかん薬の4倍量の投与など類似の投与ミスが散見されます。医療は人生の礎となる人の健康を維持するために、病気の診断や治療という極めて重要な役割を担う業務であり、そのために、それに携わる医師や薬剤師は高度な専門教育を受け、かつ、国家試験に合格した者のみにそれらの資格が付与されるものです。

“資格”とは本来、担当する業務の遂行能力に見合った知識と技量、つまり、相応の“力量”を持ち合わせていることを証明するものであり、付与する側には、必要な業務が問題なく遂行されることへの期待があります。この観点から、特に人命に関わる業務や行為に関しては国の資格を必要とする制度が敷かれています。車の運転に対する免許証の付与もその代表的な事例の一つですが、“資格の期待”に反し、悲惨な交通事故が後を絶たないという現状があります。上記のような医療過誤や交通事故の発生の原因としては、①資格に見合った力量がない状況下に資格が付与された、②資格取得時点では相応の力量があったが、その後、低下・逸失した、或いは、③資格に見合った力量を保有するが、何らかの理由でミスが生じ期待される力量が発揮されなかった、といったことが考えられます。

ちなみに、医薬品の誤投与の原因は、大きくは、①知識不足、②チェックミス、③取り違えの3つが考えられます。①に関しては、医師や薬剤師に医薬品の常用量や複数の含量規格の存在などに関する知識が不足していた、②に関しては、薬剤師が処方箋の記載内容を適正にチェックできなかった、③に関しては、薬剤師が医薬品棚などから取り出す際にうっかりして、名称の類似する他の医薬品と間違えた、などが考えられます。ただ、実際には多くの場合、この3つの原因が絡み合って発生すると考えられます。例えば、③の取り違えの場合は、表面的には集中力の欠如など、単なるヒューマンエラーと捉えがちですが、その根底には知識不足が大きく関係していることが少なくありません。この場合、類似する名称の医薬品の一覧を作成し、薬品棚周辺に貼り付けこれを参照して薬剤を取り出す習慣をつけることなどがその対策になるでしょう。

さて、翻って、医薬品の製造・品質管理(GMP)の領域における“資格と力量”について考えたいと思います。GMPにおいて職員の資格化が重視されることは周知のとおりですが、特に、試験検査業務など高度で専門的な知識や技術が求められる業務に携わる者には、必要な教育訓練を施し資格を付与(認定)することが望まれます。医薬品は人の生命に直接関わり、有効性と安全性を保証するために品質の確保が重要であることがその理由であり、資格認定システムが敷かれ、専門的な知識や技術を要する業務に就く職員に資格が付与されていることは、その工場で製造される医薬品の品質への信頼性が高いことの一つの証にもなります。従って、資格の認定に際しては形式的にならず、適正な教育訓練の下、厳格に行われる必要があります。
 

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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