ラボにおけるERESとCSV【第88回】

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(58)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見 (Observation) の概要を紹介する。

■ RRR社 2019/10/4 483
施設:原薬工場

■Observation 4
OOS(Out Of Specification:規格外)となった場合の調査が適切に規定されていない。特に;
① 逸脱を起動することなく、何回も分析を無効化することを許している。
② 無効な分析のラボ調査を着実で適切に記録するよう求めていない。

★解説
データインテグリティを指摘した500件のFDA 483の内、約30%においてOOSや再テストに関する指摘があった。繰り返し測定を行い良い結果しか記録・報告していないのが露見すると、既出荷品の品質判定に疑いありということで指摘される。その483指摘に適切に対応しないとウォーニングレター(警告書)になりやすい。

データインテグリティを指摘された場合に行うべき対応項目を以下に紹介する。
 A. 広範囲な調査
   A-1    詳細な調査手順と調査手法
   A-2    現職員および退職者との面談
   A-3    不適合範囲の調査
   A-4    広範囲な回顧的評価
 B. 現時点におけるリスク評価
 C. 経営戦略
   C-1    詳細な是正処置計画
   C-2    根本原因の説明
   C-3     暫定処置
   C-4    長期方策
   C-5     状況報告
データインテグリティを指摘したウォーニングレターにはこれらを行うよう記載される。それらを483指摘対応で実施しておけばウォーニングレターにはならないはずである。上記項目の内容については、本連載の第29回第30回において説明したのでそれらを参照されたい。

OOSになった場合の対応方法がFDAの下記ガイダンスに記載されているので参考にするとよい。
  Guidance for Industry
  Investigating Out-of-Specification (OOS) Test Results for Pharmaceutical Production
  CDER, 2006/10
   業界向けガイダンス 医薬品製造における規格外テスト結果の調査
   CDER(Center for Drug Evaluation  and Research:医薬品評価研究センター) 
   2006年10月

ラボにおいてはこのガイダンスに記載された「フェーズ1 ラボの調査」を参考にするとよい。

「フェーズ1 ラボの調査」の概要:
 目的:OOSとなった原因を以下のどちらかに切り分ける
   ✓ 測定における異常
   ✓ 製造における異常
 1)ラボデータの正確性を初期評価する
   ✓ 可能であれば、テスト調製を廃棄するまえに初期評価する
 2)予期せぬ結果の説明ができない場合
   ✓ サンプル調製を維持
   ✓ 上司に報告
 3)上司は
   ✓ 客観的かつ速やかに評価を行い、ラボエラーか製造の問題かを解明
   ✓ 即座に評価することにより、最初の測定や調製に使用した実溶液、実テスト群、ガラス製品を再調査
    できる
 4)ラボデータの正確性評価を十分に記録し保管する

フェーズ1における留意点
  ▶ 測定データ(電子記録)は絶対に削除しない
  ▶ 見たこと、行ったことは記録し、証拠とする
    たとえば「上司に報告」と上述したが、その報告内容を適切に記録しておかないと「上司に報告した
    こと」を査察官は認めてくれない。2017年のFDA国内査察においてそのような事例があった。
国内の某CROにおける下記の実務事例は説得性がある。
  ▶ データレビューをパスするまで、サンプルや調整液を維持
ファームテクジャパン2018年2月号において、このFDAガイダンスを解説したので参考にされたい。

さらにMHRA(英国医薬品庁)の下記ガイダンスも参考になる。
  Out of Specification Guidance, 2017/10
  規格外ガイダンス 2017年10月
      https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/
      attachment_data/file/678256/MHRA_OOS_OOT_Oct17.pptx
このガイダンスは上記のFDAガイダンスを補完するものとして発出された。具体的な処理ステップがフローチャート記載されており判りやすい。また、明確なエラーとその処理の例が以下の様に紹介されており参考になる。

  明確なエラーの例とその処理例:
  ▶ 計算誤り
    ✓ 分析者と上司がレビューし修正内容に日付とサイン
  ▶ 電源ダウン
    ✓ 分析者と上司が事象を記録し分析し直す
  ▶ 機器異常
    ✓ 分析者と上司が事象を記録し分析し直す
  ▶ 操作ミス
    (サンプル溶液をこぼした、サンプルを全量入れていなかったなど)
    ✓ 分析者はただちに記録する
  ▶ 機器パラメータ誤り
    (波長の誤りなど)
    ✓ 分析者と上司が事象を記録し分析し直す

このMHRAガイダンスの発出背景はMHRA査察官の下記ブログに記載されている。
https://mhrainspectorate.blog.gov.uk/2018/03/02/out-of-specification-guidance/

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