遺伝子療法がやってくる
遺伝子療法は、新規治療法が上市され、より多くの患者で実際に利用されることで、今後12ヶ月間で大きく前進すると期待される。
大手製薬企業が注目
ペイヤーが納得するような医薬品償還モデルのあり方や、免疫原性の問題がどの程度患者人口の制限要素となるか、またどの程度迅速に商業的な製造規模に移行できるかなど、遺伝子療法に関する多くの課題はいまだ解決されていない。
例えば、超希少疾患であるリポタンパク質リパーゼ欠乏症を適応症としたユニキュア(uniQure)のグリベラ(Glybera)は、2012年に欧州連合でいち早く承認された。しかし、治療レジメンが100万ドルという高額な価格設定のため、利用者がわずか1名に留まり、遺伝子療法の可能性に光を当てる優れたテストケースとはならなかった。
遺伝子療法に必要なビジネスモデルは、医薬品の製造供給で利用されている従来のモデルとは明らかに大きく異なる。10年以上にわたり、大手製薬企業は遺伝子療法に見向きもせず、この間、学術的な医学センター、また最近では学術機関からのスピンアウト企業が、同分野の前進を担ってきた。
しかし今では大手製薬企業も遺伝子療法の可能性に注目。主導的な研究病院との提携などを通じ、同分野に再参入している。
GSKとストリムベリス
遺伝子療法分野に再参入した大手製薬企業の1つにグラクソ・スミスクライン
(GlaxoSmithKline、以下GSK)がある。アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損による重症複合免疫不全症(SCID、以下ADA-SCID)の遺伝子療法である同社のストリムベリス(Strimvelis)は2016年、欧州で承認を受けた。ADA-SCIDは非常に希少な遺伝子疾患で、患者人口は世界で小児350名と推定されている。
ADA-SCID患者では、リンパ球の産生に必要なADAの産生能力が欠損している。ストリムベリスは、患者から骨髄細胞を取り出し、正常なADA遺伝子のコピーをベクターを用いて挿入した上で、患者の体内に再注入するというもの。
ストリムベリスはもともと、イタリアのミラノを拠点とする病院のオスペダール・サン・ラファエレ(Ospedale San Raffaele、以下OSR)と、遺伝子療法の研究を支援する非営利組織のフォンダチオーネ・テレソン(Fondazione Telethon、以下テレソン)が共同で設立した サン・ラファエレ・テレソン遺伝子療法研究所(San Raffaele Telethon
Institute for Gene Therapy、以下サン・ラファエレ)が開発しており、GSKは2010年に同研究所と提携した。
ストリムベリスは、サン・ラファエレから分離独立して設立されたモルメド(MolMed)が製造している。2016年8月、GSKはイタリア医薬品庁(Italian Medicines Agency)との間で、ストリムベリスの1回あたり費用を59万4,000ユーロ(66万5,000ドル)と定め、治療が奏効しなかった場合は全額返金することで合意に至ったと発表した。
ストリムベリスによる治療を希望する欧州在住のADA-SCID患者は全員がミラノのOSRで治療を受けることから、この価格と取り決めは、実質的に欧州全体に適用される。
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