バイオ医薬品分野における品質保証責任者の独り言【第10回】

第10回:顧客はなぜ、あなたのQAを「敵」と感じるのか


はじめに:
 
これまで、QAが「社内の敵」と見なされてしまう構図について、二つの視点から掘り下げてきた。現場との関係と、マネジメントとの関係である。しかし、QAが向き合う相手は社内だけではない。顧客もいる。
 医薬品・バイオ医薬品の世界には、原薬、製剤、受託製造、原材料供給など、どこかに必ず「顧客」が存在する。そして顧客もまた、こちらのQAを「厄介な相手」と感じることがある。監査では防御ばかりする。質問への回答が遅い。何を聞いても「規制上お答えできない」と壁を作る。こうしたQAは、社内だけでなく社外からも敵と見なされる。
 厄介なのは、社内の対立なら会議や飲み会で修復できる余地があることだ。顧客との関係は違う。一度「この会社は信用できない」と思われると、その評価は静かに固まる。顧客は面と向かって怒らない。次の監査で質問が増え、取引の見直し候補に名前が挙がり、ある日、新規案件の声がかからなくなる。顧客は敵を責めない。黙って離れていくのである。
 本連載では、視点を社外へ広げ、顧客の敵にならないQAとは何かを考える。そもそも顧客がどんな瞬間にこちらのQAを「敵」と感じるのか、その構造を解き明かす。結論を先に言えば、顧客に信頼されるかどうかは監査室の中では決まらない。監査室の外での振る舞いで決まるのである。

1. 監査で信頼を失う「決めゼリフ」
 まず、監査あるあるを一つ挙げる。
 顧客監査の場で、監査員が記録の一点について質問する。
 「この逸脱の影響評価の根拠を見せてほしい」
 これに対し、こちら側のQAが胸を張ってこう答える。
  「弊社の手順に従って適切に実施しております」
 監査員が知りたいのは「手順に従ったか」ではない。「その判断が妥当だったか」である。それなのに手順遵守を繰り返し盾にすると、監査員は静かにこう感じる。「この会社は、都合の悪いことを見せたくないのだな」。この瞬間、信頼は崩れ始める。
 「適切に実施しております」「問題ございません」「手順どおりです」。これらは一見、優等生の回答である。しかし、質問に対して何も答えられていない。監査の場では逆効果になることが多い。裏を返せば「これ以上踏み込ませない」という壁だからだ。監査員はプロである。壁を感じた瞬間、そこに何かがあると直感する。そして、その壁の向こうを確かめるために、さらに質問を重ねてくる。結果として、守ろうとした場所ほど深く掘られることになる。

 

 

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