医薬生産経営論・番外編(ひとつの高校野球論)【第2回】

私は大阪市内中心部のマンションに住んでいる。

 

私の部屋から、近くの公立高校のグランドが見える。住宅とマンションに囲まれた狭隘な長方形のグランドで、サッカーをするには1面は取れないし、野球をするにはファウルグランドは殆どなく、二塁手とライトの定位置の中間あたりがフェンスである。打力のある左打者なら楽々とライトフェンスを越え校舎にボールを当ててしまうだろう。硬式野球部、サッカー部、女子ソフトボール部の共用グランドである。そして、この野球部は1年に1度しか、公式試合ができない。夏の大阪府予選大会だけしか公式戦には出場できない。選手の数が足りないからである。

 

しかし、今年の夏の府予選は2試合できた。僅か12名の部員で臨んだ府予選の1試合目で、大方の予想に反し逆転勝ちしたからである。残念ながら、2試合目は負けてしまい、3年生は退部し、現在は6名の部員しかいない。秋の大阪府大会には、部員の少ない他の高校との連合チームも結成できなかったようで、エントリーできていない。来年の春、新1年生が4名以上入学してこなければ、来年は、夏の大会も含め、全く公式戦には出られないかも知れない。

 

それでも、選手たちは毎日、グランドで練習している。授業が始まる前の早朝も、女子マネジャーに手伝ってもらってトスバッティングなどの練習をしている。その熱意には、頭が下がる思いがする。しかし、どんなスポーツでもそうだと思うが、試合をしなければ選手は上達しないし、練習する意欲も湧かないはずである。一塁ランナーを出しての走塁練習が唯一の試合形式に近い練習のようだが、見ていて悲しくなる。1死満塁(タイブレーク方式)での練習などはできない。

 

この高校の吹奏楽部は全国レベルで、部員数は100名を超えると思われるが、学校体育祭で吹奏楽部の生演奏で入場行進を行い生演奏で君が代を斉唱する学校は、全国でも数少ないと思う。しかし、残念ながら、この吹奏楽部が甲子園大会で母校のチームの応援演奏をすることは、永久にないかも知れない。私の故郷の山口県でも、ある山間部の公立高校が今年、夏の県予選への出場を辞退した。部員数は10名を超えているが、大半の部員が中学時代に野球の経験がない1年生であり、県予選に出て試合することは選手にとって危険である、という理由である。

 

私は、長く高校野球を観てきたが、こんな理由で出場辞退した高校を聞くのは初めてのことである。
 

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