日本の製薬業界の未来を考えたい【第3回】
■初めて経験したGMP証明に基づく調査
私が初めてGMP調査を経験したのは、当局に採用された初年度、今から約30年以上前のことです。当時のGMPは、現在のような許可要件ではなく、「通知GMP」と呼ばれる制度でした。現在と単純に比較できるものではありませんが、制度としての枠組みはまだ発展途上で、「バリデーション」という言葉も十分に理解されておらず、バリデーションの直訳「検証」とは具体的にはどういうことかといった議論が職場や当局で交わされていた時代でした。
GMPの基本的な考え方については、皆様すでにご存じかと思いますので、ここでは詳細な説明は控え、私自身の体験談としてお話しさせていただきます。
今回ご紹介するのは、「GMP証明に基づく調査」と「FDA調査への同行」のうち、まずは前者についてです。
GMP証明に基づく調査とは、日本の製薬会社が製造した医薬品を海外に輸出する際、輸出先国の当局から求められる「GMP証明書」を取得するために実施されるものです。証明書は日本政府が発給するため、当時は厚生労働省から都道府県に対して調査の実施依頼がありました。現在ではPMDAが一元的に担当していますが、当時のPMDAは「医薬品副作用被害救済機構」として存在しており、GMP調査の実務は地方当局が主に担っていました。今では考えられない体制ですが、制度が整備される前の過渡期ならではの運用でした。
調査の流れとしては、まず国からの実施依頼のFAXを受け付けるところから始まります。次に、対象となる製造業者に電話で連絡を取り、調査日程を調整します。その間に、調査を担当する職員を決定します。当時は、製造所の規模や調査内容に応じて、通常2~3名体制で実施していました。
調査日程は、基本的に2日間+予備日1日の計3日間で調整していました。対象となる製造所は大手製薬会社が多く、工場の規模も大きいため、3日間程度の計画を立てるのが一般的でした。
調査のスケジュールは以下のような流れです:
1. 工場長による挨拶
2. 製造所の概要説明
3. 申請品目を中心としたサイトツアー(製造設備の実地確認)
4. 会議室に戻っての文書審査(手順書・記録類など)
5. ラップアップミーティング(講評・総括・意見交換)
ラップアップミーティングでは、指摘事項や指導事項がある場合、改善計画の提出期限を確認し、次回の調査時にフォローアップする旨を伝えます。問題がなければ「概ね良好」と評価して終了します。この「概ね」という表現は、行政文書特有の言い回しで、後にクリティカルな問題が発覚した際の“逃げ道”として使われることもありました。
調査終了後は、調査当局が実施報告書を国に提出し、国からGMP証明書が申請者に発行され、申請者に交付されるという流れになります。
このような調査を通じて、現在と比較し、制度の整備途上な時代に現場で試行錯誤しながら対応していた経験は、今でも私の業務の原点として強く記憶に残っています。
さて、余談ですが、近所に飲食店がなく昼食を製造所の食堂でいただいたこともあります(もちろん有償で)。なかなか機会があることではなかったので、新鮮でした。かつて国際会議でフランスのメーカーでも社食をいただいたことがありますが、さすが食文化の先進国、チキンや豆を中心とした美味しい料理をビュッフェ形式で楽しみ、非常に良い経験をしました。そのうち海外から学んだことも紹介していこうと思います。
「FDA調査への同行」についてですが、担当区域の医薬品原薬工場がFDAの査察を受けることになったとのことで、国からお誘いがありました。私は当時当局1年生でしたので、研鑽を兼ねて当時のリーダーが行かせてくれました。
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