【第28回】デジタルヘルスで切り拓く未来
「サイエンスコミュニケーションがもたらすもの」
●要旨
関西・大阪万国博覧会(万博)は、人と機械やシステムについて考えさせられる機会でした。ITへの親和性については人それぞれですが、万博IDを作る難しさなど課題が見えました。どのように向き合うかはメンタルモデルの理解が必要です。
「もの」についても目を向けるとき、万博にはいろいろな工夫がありました。市民を巻き込んで未来社会のデザインを見せるとき、サイエンスコミュニケーションが入り口を作っていました。いつかその素地が花開く日が来ます。
●はじめに 使いこなすために
閉幕が近づき万博への入場予約が難しくなってきました。入場したい人と受け入れるゲートの体制やパビリオンなどのキャパシティが釣り合わないことの問題が根底にありますが、DXってなんだろうかと考えさせられる機会でもあります。最初に掲げられた「ならばない万博」の夢は打ち砕かれ、どこに行っても列、列、列。酷暑の中で体調を崩す人もいて、大屋根リングの下で待機するパビリオンが増え、列が列を呼び待ち時間が5時間なんて話も聞きました。アクセシビリティに配慮した入場などの工夫はあるのですが、すべての人に優しいとはいえません。予約制を採用しているパビリオンやイベントも多いのですが、システム上のトラブルが多く、予約システムを使いこなせない人には大変でしょう。ITへの親和性という意味ではまだ課題があります。万博は、これからの社会の課題を浮き彫りにしています。
<図表> メンタルモデルに目を向ける

1 Health Designから見えた課題
前回に続き、6月に開催された「Health Design」を話題にします。このイベントには面白い仕掛けがたくさんありました。デジタルに、ある程度親和性があればとても楽しいことは明白でした。たとえば、自分のスマートフォンをコントローラーにして操作をして楽しむこともできましたし、自分のデータを手元で見て保存することもできました。サイエンスコミュニケーションや未来のビジョンを体験する機会であり、本当に楽しそうな人が多くいました。その後も展示ホールであるWASSE会場では多彩なイベントが開かれかれ、デジタル技術を使いこなせば楽しいことがありました。「やってみればわかる」体験の持つ力は大きいものです。しかしながら、その外側にいる人はどうでしょうか。
まず体験をする機会がないだけでなく、入り口に立つこと自体にも差があります。万博のチケットを買うのは窓口ではなくて、自分が利用するネットからが中心です。途中から旅行代理店等でも買うことができるようになりましたが、予約には自分のIDを作って紐付けをしなければなりません。マイナンバーとあれこれを紐づけるのに大変だと思う人々が、万博IDを作って紐づけるのは容易ではありません。
ふと思い出したのが、パーソナルコンピューター(PC)などの扱いで苦い思い出があるかどうかです。私は大学生時代からPCもパソコン通信も使ってきました。ペラペラのフロッピーディスクも知っています。コーディング等も大学で習得しましたが、何か間違えるとPCのシステムから怒られました。そのうちアシスタント的なキャラクターが登場して少し優しいものにはなりましたが、間違えるのはトラウマです。最近のPCは怒るより不便をかけてごめんなさいと謝ります。でも、壊しちゃったらどうしようという意識は簡単に抜けるものではなく、さまざま電子機器と向き合うときに一抹の不安を感じる人は少なくないでしょう。むしろ、昔ながらのガシャガシャした機械の方が理解しやすく、壊してもまた修理すればいい、なんなら、ゴン!と叩けばうまくいく、なんて発想もあります。
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