最新コスメ科学 解体新書【第21回】
ピッカリング エマルション③ あっと驚く粉のふるまい
2007年に会社から大学に移りました。教員一人の研究室の立ち上げということで、予算も設備もないけれど、いつ、誰と、何をやっても良いという自由だけはある・・・。さて、何をしよう、ということで、界面活性剤を使わずに、固体粒子が油相と水相の界面に吸着するピッカリング現象を研究のひとつの柱に据えることにしました。すでにこのエマルションの研究を何年もかけて進めて、論文も発表してきましたが、この機会にこれまでになかった新しいチャレンジをしたい、という気持ちが強くあったのです。
そこで、まず取り上げたのが「マイクロボール」とわれわれが名づけたパウダーでした。このパウダーはT社という材料メーカーで開発されたもので、ご飯をよそうお椀のように半球状の粒子の真ん中に丸い穴が開いた、特徴的な形のシリコーン樹脂の粉体でした。メイクアップ化粧料にこのパウダーを配合すると、球状のパウダーのように光を散乱するとともに、板状のパウダーのように効率的に皮膚に付着することから、皮膚を自然で透明感のある質感に整えることができるのではないかということで注目されていたのです。わたしは、このパウダーを利用したら、お椀の平らな面が界面にペタペタと貼りついた、ちょっと変わった形のエマルションができるのではないかと予想して、そんな界面化学的な理論を実際の系で検証してみよう、と考えたのでした。
早速、T社にお願いしてマイクロボールをわけて頂き、水と化粧品や皮膚外用剤に使われる炭化水素油を混ぜてみたところ、びっくり! 一発で炭化水素油の液滴の周りにマイクロボールが吸着したピッカリングエマルションができました。「ほら、俺の言った通りだろ。」なんて担当してくれた1期生のKo君に自慢して、研究をスタートしたのです。 ところがです。その数日後、Ko君がちょっと困った顔でやってきました。
「先生、すいません、なんか、実験、失敗しちゃったみたいなんです。」
「え~、どうした?この間はうまくエマルション、できてたじゃん。」
まだ私も若かったので、前と同じ方法できちんと作ったかを確かめる口調が荒かったのでしょう、まじめなK君はしどろもどろになって、言い訳を始めました。
「実はエマルションっぽいのができてるんですが、液滴みたいのが入ってるんです。何回やっても同じ結果で・・・。すいません。」
・・・ん? エマルションの中に液滴みたいのが入ってるだって??? 十数年間、エマルションをいじってきた研究者として、ピンときたことがありました。「もう一度作り直します。」と言っているKo君を押しとどめて、一緒にサンプルをガラス板に垂らして顕微鏡で覗きます。
「やっぱり!」
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