ゼロベースからの化粧品の品質管理【第55回】

2025/04/18 化粧品

衛生管理の具体的な展開について

 

―製造所における衛生管理の具体的な展開について―

 ISO 22716は、化粧品製造におけるGMP(Good Manufacturing Practice, 適正製造規範)を定めた国際規格であり、その目的は品質と安全性の確保にあります。前回は、「組織と役割」に焦点を当て、日常業務を遂行する職制に基づく組織をどのようにGMPの観点から構築すべきかについて述べました。
 GMPに関する議論では衛生管理が中心となることが多いですが、GMP体制の整備にあたっては、品質保証全体の仕組みが「3原則」に基づいて適切に運営されていることが極めて重要です。特に近年、製薬企業におけるコンタミネーション(汚染)事故を受け、交差汚染リスクへの関心が高まっています。
 製造所における衛生管理は、品質および安全性の確保に直結する要素であり、ISO 22716の要求事項は各部門で運用されているものの、組織全体として統一的な理解が不足しているケースも見受けられます。その結果、リスクが明確に定義されず、形式的な手順書の運用に留まる事例も少なくありません。
 そこで、今回は衛生管理における重要点、主なリスクとその対応策、および監査におけるチェックリストについて解説します。

1.化粧品製造所における衛生管理に関する重要事項と主なリスク
 化粧品は薬機法により、品質、有効性、安全性の確保と、保健衛生の向上を図ることが求められています。そして、使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止を図るため、適正製造規範(GMP、化粧品は適用除外)やISO22716では具体的な展開について要求事項が示されています。

衛生管理に関しては、次の項目が必要とされています。
① 製造所の環境管理:空調、ゾーニングおよび清掃・消毒、水の管理
・製造エリアの清掃・消毒手順の確立と実施
・空調管理による微生物・異物混入リスクの低減
・適切な廃棄物処理システムの導入
② 作業者の管理:手洗いと手指消毒、着衣・保護具、健康管理
・作業員の健康管理(疾病時の対応、健康状態の把握と記録など)
・作業エリアにおける適切な服装・手指消毒の実施
・定期的な教育・訓練の実施
③ 原料・材料の衛生管理:受入れ検査、保管、異物対策
・受入検査と保管条件の厳格な管理
・交差汚染を防ぐためのゾーニング(区域分け)
・使用期限やロット管理の徹底
④ 製造工程:器具・装置の洗浄・消毒基準、異物対策、交差汚染対策
・製造エリアの清掃・消毒手順の確立と実施
・空調管理による微生物・異物混入リスクの低減
・適切な廃棄物処理システムの導入
⑤ 衛生管理のモニタリング:微生物対策、防虫防鼠、衛生管理の記録
逸脱管理、是正管理、内部監査と継続的改善
 
 衛生管理が不十分な製造所では、製品が微生物や異物に汚染されるリスクが高まります。特に、化粧品は防腐剤を含んでいても、保存中や使用時に細菌やカビが繁殖する可能性があります。
 汚染された製品が市場に出回ると、消費者の皮膚トラブルや感染症を引き起こし、企業の信用を大きく損なうことになります。化粧品における皮膚トラブルの要素は、紫外線吸収剤や美白成分、防腐剤等の成分、体調の変化の要素や使い方の誤り等、複雑ですが、微生物の代謝物や異物によって起きるケースもあり、ほぼ毎年、製品の回収が余儀なくされている事例があることから、衛生管理の徹底重要で、場合によっては企業の存続にも直結します。
現場の管理としては、次の事項が重要なチェックポイントとなります。
① 製造環境の衛生管理
●換気回数、空気の流れ方向の確認:暴露した原料、バルクの開口部に異物が入り込む動線になっていないか?
●各クリーン度に対応した清掃、定期敵な消毒の実施はどうなっているか?
●フィルター、エアーの吹き出し口の管理は?
●各ゾーンのクリーン度に対応した入室ルールは徹底されているか?
② 作業者の衛生管理
●素手と手袋着用のルールと洗浄・消毒のルールは?徹底されているか?
●異物汚染への対応:イヤリング、付けまつげ、マニュキュア、爪の長さ、頭髪・体毛の落下防止は具体的に示され、徹底されているか?
●感染症状、露出した部分にキズがある人の管理と立入制限の管理方法は?
③ 原料・材料の衛生管理
●受入試験の実施と保管中の汚染防止は?
(表面のほこり、地面の直置き、破損品がないか?)
●保管環境の温度・湿度管理の基準と管理方法は?
(例:25℃以下、湿度60%以下等)
④ 製造器具・設備の洗浄・消毒
●使用前、使用後の洗浄・消毒の手順と有効期限の設定は管理されているか?
●洗浄剤・消毒剤の濃度、保持管の規定はどのように徹底されているか?
●交差汚染防止のための用具類の使い分け、使用ゾーンの区分、有効性の確認方法の確立はどのように展開されているか?
⑤ 交差汚染、異物混入対策
●各ゾーン間の移動時の人の着衣や物の取り扱い方、入出時の着衣、手洗い等のルール化は?
●エアーシャワー、粘着ローラー、吸引機、ふき取り用モップ掛け等のルール化は?
●ロット別管理、端数管理、汚染リスクのある物の物理的隔離は徹底されているか?(粉体と液体、ガスを発生するものの交差汚染対策は?)

 

 

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執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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