医薬品製造設備の基本、計画、設計、建設プロジェクトを学ぶ【第5回】

4) 詳細設計(工程表ID 60~86)
 4.1 機器設計
 4.1.1 詳細設計基本条項
詳細設計基本条項は、機器設計以外の設計分野でも作成されます。
これは、それぞれの設計を開始するための、各分野毎の技術計算の手法をまとめています。
機器設計を例に取ると、 適用規格、適用法規、技術標準、材料規格及び選定基準、設計圧力や設計温度の考え方、設計風荷重の計算方法、耐圧試験の考え方、許容応力の考え方、腐れ代、 構造各部詳細仕様、といった具合です。
詳細設計基本条項の作成を契機として、詳細設計が開始されます。

4.1.2 スケルトン、製作仕様書、調達仕様書
スケルトンは、プロセス設計の段階で作成されたあと、機器設計で板厚や各部の詳細仕様が補足されます。これに、先の詳細設計基本条項と、製作メーカへの指示事項をまとめた「製作仕様書」、並びに発注の条件をまとめた「調達仕様書」がワンセットとなって機器の調達が行われます。調達仕様書には、納入場所、製作範囲、予備品に対する要求事項、塗装・梱包・輸送、試験検査、官庁申請、検収条件、保証などが盛り込まれています。ボイラーやコンプレッサー、精製水設備などのいわゆるパッケージ機器については、要求性能や仕様を取りまとめたデータシートをメーカに開示して、一式で製作してもらいます。パッケージには、機器、配管、電気、計装、及びそれらを設置する架台などの一式が含まれていて、これらは、パッケージ機器の廻りの本体プロセスと取り合っています。従って、配管や計器等の詳細の製作役務区分を明確になければなりません。また、パッケージ機器の設計基準については、詳細設計基本条項で取り決めなければなりませんが、通常、パッケージ内の設計基本は、メーカの標準とすることもあり、この場合は、取り合い条件のみを明確にすればよいことになります。パッケージ機器メーカとの情報の授受では、特に、パッケージ内部の設計情報(P&ID、PLOT PLAN, 機器リストなど)をプロジェクトの設計作業に必要なタイミングで入手できるように管理することが重要です。

4.2  早期発注機器
プロジェクトで設置する機械の中には、長い納期を有する機器を含む場合があります。
このような長納期機器は、プロジェクトの全体納期を左右します。また、こうした機器の納入待ちで、建設現場に不要な待ち時間を発生させ、追加費用の発生を招くこともあります。長納期機器への対応では、あらかじめ該当機器とその納期を把握しておき、通常の設計ルートを経ずに、契約と同時にコントラクタが発注できるように、あらかじめ準備しておきます。契約が間に合わず、プロジェクトの資金が使えない場合は、顧客に購入してもらうことも視野に入れるべきでしょう。いずれにしても、早く機器の納期を把握しておくことが重要です。  

4.3 晶析槽・粉砕機
本プロジェクトでは、プロジェクト開始時点で晶析と粉砕の操作条件が決定されて
おらず、そのため顧客にて継続して実験を行わなければならない、という設定です。
 この場合、本工程表(マスター・スケジュール)を早く顧客に提示し、実験継続の
時間的な影響を理解してもらい、目標とするプロジェクトの終了までに、どの程度の時間的余裕があるのか、あるいはないのか、顧客に理解してもらうことが重要です。
本工程表では、実験とその評価を会わせて9週間かかるとしました。
つまり、この期間は基本設計の開始に対して‘遅れ’となり、P&ID、PLOT PLANが出来るまでの工程の遅れが全体工程に影響を及ぼします。
 ちなみに、本工程では、晶析・粉砕工程の遅れは、本工程のPFDの作成開始から、
関連部分のP&ID、PLOT PLANの改訂を終了するまでの必要期間を5週間と
設定しています。今後の工程を策定する中でこれらの遅れがどのように影響してくるのか、を注視しておかなければなりません。

4.4 土木・建築設計
土木・建築設計では、「詳細設計基本条項」を作成・発行したのち、基本設計で作成した、平面・立面・断面図及び他部門からの設計インフォメーション(*1)、並びに機器・機械・回転機、その他、建築付帯設備(空調、電気)のL/D(*2)を用いて構造計算が実施されます。ここでも、メーカー図面と同様に、機器・機械・回転機などのL/DはERD(*3)に位置づけられ、設計作業に必要となるタイミングで入手できるよう、きちんと納期管理する必要があります。そののち、実施設計(詳細設計)へと進み、土木・建築の製作・工事図面が作成されます。工程表には明示していませんが、多くの場合、この作業期間の中に鉄骨製作図の作成も含まれてきます。通常、土木建築の設計から建設に至る工程では、鉄骨の製作がクリティカルとなることが多いようです。鉄骨の設計には、鉄骨が設置される建物、鉄骨に設置される機器・機械等の情報が整っていなくてはならないため、遅い設計開始となることが多く、一方で建設現場では、基礎の完成後、すぐに鉄骨の建て方が始まり、これらに挟まれて時間的な余裕がないためです。鉄骨製作の工程を個別に作成して管理してもいいでしょう。
  (*1) ある設計部門において計画され、他の設計部門のインプット情報となる
    設計情報を、設計インフォメーションと呼びます。設計部門間のインター
    フェースに発生し、インターフェースを結び付ける役割をします。
    例えば、他部門から、(プロジェクト部門を経由して)土木・建築設計
    部門に発行される設計インフォメーションには、以下のようなものが
    あります。
  ・配管インフォメーション(4.5.3 配管インフォメーションを参照)
  ・コントロール・ルームのレイアウト
  ・ケーブルトレンチ、ダクト・トレイ道路横断レイアウト
  ・電気室レイアウト
  ・電気機器のL/D
  ・HVACレイアウト及び空調機器のL/D   など
従って、設計工程の管理は、こうした設計インフォメーションが適切なタイミングで発行されるか、を管理することが重要となります。このようなインターフェースの情報は、プロジェクトの規模やプロジェクトを遂行するエンジニアリングの組織により異なります。各会社の最小の業務単位(ワークパッケージ)がことなり、場合によっては、他の設計部門に依頼しなくても、自部門内で情報の授受が終了し、わざわざ設計インフォメーションとして作成する必要が無い場合もあるからです。
小さなプロジェクトで、少数の設計者がいくつかの設計作業を1人でこなすような場合は、インターフェースが生じませんから、こうした情報を作成する必要がありません。また、もともと、少人数の設計者の構成でプロジェクトを遂行するように組織建てがなされていて、要員の教育もそのようにされている場合は、同じ状況となります。これまでの経験では、少なくとも、プロセス系、機械系、土木建築系の3種の専門性が要求されるようです。また、プロジェクト・エンジニアの機能をプロセス系のエンジニアが兼務する場合もあるようです。
見方をかえて、プロジェクトのフェーズ単位で見てみますと、基本設計図書は詳細設計への橋渡しをする設計インフォメーションとも言えます。
 (*2)  Loading data : 機器・機械などの荷重、重心位置、据え付け足まわりの
    詳細情報などが記載される。
 (*3)  Engineering Required Date : 他部門、あるいは協力会社からの設計
    情報入手が必要となる日程

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