【第3回】Pharma4.0と製造現場のデジタル化施策

Pharma4.0 スマートファクトリーへの挑戦 Challenge to the Pharma4.0

本コラムでは、Pharma4.0スマートファクトリーに向けた医薬品製造業の課題に対する当社の各種取り組みをご紹介します。大きな基盤づくりの方法論から、各種課題解決ツールまで、幅広くご紹介しますのでご期待ください。

1.スマートファクトリーの中核 MES(Manufacturing Execution System)
大半の企業では、少なくとも一部のレベルや領域において、今でも紙のシステムに頼りながら規制対応したプロセスで生産しています。この紙のシステムでは時宜に適った報告が行われにくく、正確な情報の欠如を理由とするオペレーション上の問題が残ります。多くの生産や品質の責任者が絶えずストレスに曝され、火消しさながらの問題の事後解決に多大な時間を費やしているのではないでしょうか。
この問題に対応するために、企業レベルでERP、工場レベルではMESやLIMSを導入、統合し、生産や検査関連の業務をペーパーレスで行うことにより、より効率的かつ一貫性のある適正な管理が実現できます。生産現場で設備と連携するMESの利用は、この問題の解消に目覚ましい効果をもたらします。現場の紙記録を電子化し、作業都度、電子的に作業記録が取得され、且つ、許容範囲チェックにより、逸脱発生時には工程管理責任者へのエスカレーションが瞬時に行えます。設備から直接実績を取得することにより、人手による転記作業はなくなり、製造の効率化、品質向上に寄与します。

MESを導入、運用するうえでのポイントは、マスタバッチレコードの標準化です。各工程の作業を標準化し、新規製品導入時、他工場での製造開始時に統合的に管理されたライブラリーを用いて、マスタバッチレコードを組み立てることができると、マスタ変更管理業務負荷を軽減できます。
当社が導入するドイツ ケルバー社のWERUM PAS-X MES(以下、PAS-X)は、グローバルで利用できる医薬品製造に特化したMESであり、ライブラリー管理機能が充実し、標準ライブラリーを用いたマスタ構築・検証を行えます。システム機能の標準化のみならず、ライブラリーの標準化も併せて取り組むことで、MES導入をスピーディに合理的に進めることができ、MESと様々なデバイス(バーコード、RFID、ボイスインストラクション、バイオメトリックス認証)が連携することで、ユーザ操作性の向上に寄与します。

さらに、各現場で発生する製造現場の「人・物・設備」に関する計画・指図・実績データは、MESに自動的に収集されるため、必要な情報を自席でネットワークにつないだPC・モバイルでタイムリーに参照・活用でき、製造進捗、品質、効率を「見える化」するため、改善、最適化の活動にも非常に役立ちます。

2.Pharma 4.0におけるMESの変化
Pharma4.0を実現に向けてMESへの要求事項や、カバレッジも変化しています。ここではどのように変化しているかを考察いたします。

1)Level2とLevel3の境界線が曖昧に
Level3 MESとLevel2 SCADAの境界線が曖昧になってきました。これはソフトウエアの機能の進化によるもの、ソフトウエアライフサイクルの管理の変化も影響しているのではないかと考えられるのではないでしょうか。
例えば、SCADAソフトウエアもタグ設定とタグデータ収集と監視のみならず、レシピを保持しタグ情報をパラメータ化・MESレシピとの共有をすることでデータ統合の効率性を図れるようになってきています。また、データインテグリティ、電子署名に対応した作業手順を、設定によりノンコーディングングで組めるようになりました。そして、MESは工場毎の単体MESではなく、他拠点で利用する共通MESの導入が進められています。
このため、工場・工程の特殊業務については、共通MESに組み込むのではなく、SCADAソフトウエアを利用して製造記録を作成することも代替案のひとつになっております。搬送と製造を跨る業務(コンテナの洗浄室への搬送と自動洗浄、自動秤量と空コンテナ・受けコンテナの搬送)では、SCADAソフトウエアを利用し、共通MESに工場固有機能を保持しないことも可能となりました。
コーポレートMESのモデル展開例
2)管理戦略インテグレーションによるカバレッジの拡大
CMC×エンジ×製造×ITの管理戦略インテグレーションにより、製剤開発、治験薬製造、技術移管、商用生産のライフサイクルを跨ってMES導入の要求が変化しているのではないでしょうか。プロジェクト体制の編成も変化しています。
QTPP/CQA/CMA/CPPのパラメータの検証結果が、MESのMBRへ紐つき、製造担当組織でも、パラメータを記録する経緯の理解が求められるようになりました。
そして、製法検討段階でも、製造原価を想定した試験法、製法の選択が検討されているのではないでしょうか。
スケールアップによる装置の変更、制御パラメータの追加、最適化シミュレーションによる制御方法の改善等が行われ、製法検討から商用化生産立ち上げのリードタイム短縮に向けた取り組みが行われています。
 
3)データ活用に向けたデータソースとしての役割
MESで蓄積されたデータを活用して以下のような取り組みも加速化しておりますね。
  • 品質改善に向けた解析
  • リードタイム短縮に向けたボトルネックの可視化と解消
  • 稼働率向上に向けた予防保全の強化・設備パフォーマンス向上
これらを実現するうえで、MESで蓄積されたデータが同じルールに従ったデータでなくてはいけません。
地味な話ではありますが、工程コード、設備コード、パラメータタグの命名規則等、全社統一したコード体系でMESを導入することで、データ活用におけるメリットを最大化できるようになります。
 
4)プロジェクト業務から通常業務へ
以前は、システム導入プロジェクトはワンタイムのプロジェクトとして扱われ、プロジェクトにおいて担当リーダー、担当メンバーがアサインされ導入を進め、運用後にプロジェクトは解散、という流れがほとんどでした。
現在は、デジタルマニュファクチャリングへの取り組みが、持続的成長のためにも継続的に行われ担当組織で運営されています。このため、大きなロードマップと並行したトライ&エラーによる段階的な取り組みも、以前よりはやりやすく環境になったのではないでしょうか。

 

 

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