化粧品研究者が語る界面活性剤と乳化のはなし【第22回】

ピッカリングエマルション 粉で油を乳化する?

 粉と水と油を混ぜると何が起こるでしょうか?一般には、粉体は水となじみやすい親水的な場合には水に、油となじみやすい親油的な場合は油の中に分散しますが、水と油の両方にある程度の親和性を持つ場合には、水相と油相の境目である界面に吸着、いわゆる界面活性剤や両親媒性高分子のようにエマルションを安定化する場合があるのです。

 この現象は少なくとも百数十年前には知られていて、学術論文として発表されていました。ピッカリングエマルションという通称は、百数十年前にこの現象について報告したパイオニアのひとりをリスペクトしてつけられたのです[1]。アカデミアでこの現象に注目したのはほんの一部で、細々と研究が継続されたにすぎませんでした。一方で、産業界ではピッカリングエマルションを利用したアイテムが次々と実用化されました。なかでも化粧品分野では、固体粒子を利用することでいわゆる界面活性剤を配合しないサーファクタント-フリーの処方を開発することが可能になることから、ファンデーションをはじめとするメイクアップ化粧料やサンスクリーンに応用されたのです[2]。

 固体粒子が界面活性剤のように液液界面に吸着するのはなぜなのでしょうか?それは、ある大きさを持った固体粒子の吸着によって、系のエネルギーを著しく低下させる吸着エネルギーが発生するためと理解されています[3]。固体粒子が水と油の両方に適度な親和性を有する時は、もともと水中に分散していた固体粒子も界面と接触すると、その瞬間にそこにトラップされ、吸着します。水中に分散した状態よりもエネルギーが低く、安定な状態となるためなのです。この吸着エネルギーは、それなりに大きいため、いったん界面に吸着した固体粒子はなかなか脱離せず、エマルションを長い期間安定化することができるのです。吸着エネルギーが大きくなる一つの要因としては、固体粒子が液液界面に吸着することによって、もともと水と油が接していた界面が消失するため、系の持つ界面エネルギーが大幅に低下することがあげられています。

 

 

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