ソー責のソー肩にはソー当重い責任がのっている!【第2回】


総責は、思想、哲学、考えをしっかり持たなければならない。今、そのルーツを辿っている。前号では、薬学生の時代の話をしたが、今回は、入社後、研究所の話をしていく。
 「ソー責のソー肩にはソー当重い責任がのっている!」という本題までには、中々届かないが、技術屋の気楽なエッセイと考え、読み倒して頂きたい。いよいよ、会社への入社である。
 
1.入社当時
 入社して驚いたことが、二つあった。一つは、先輩から「定時になったら帰りなさい」、日曜日に会社に出ていくと「日曜は出勤してはいけない」言われたことである。徹夜に明け暮れていた学生時代を経て、期待に燃えて入った研究所、給料を払う会社がこれで良いのかと思った。(あとで、労働組合員になっていないからと分かったが、やるぞと燃える新人にはショックであった。)
 もう一つは、製造現場である。発酵槽、イオン交換樹脂塔が、ともかく巨大、4階建てのビルより高く、直径も10数mもある発酵槽で抗生物質を培養している。300KLのスケールである。大学で使っていたジャーファーメンターは、30Lであるから、実に10,000倍の大きさ、それを汚染もなく、培養している。そして、精製のイオン交換樹脂塔、これも巨大で100KL程もある。そして、中に充填してあるのは学生時代と同じイオン交換樹脂、巨大カラムでクロマトをしている。企業の製造技術は、もの凄いものだと感じた。それを設計した研究者、エンジニア、それを稼働させている製造現場の人たちが頼もしく思えた。
 
 入社して、初めての夏、歌でしか知らなかった尾瀬に誘われて、職場の若手10人程で出かけていった。小田原、上野、夜行列車とバスを乗り継ぎ、早朝に鳩待峠から尾瀬に入った。途中、お昼に持参したお弁当を食べたが、お握りを割ると糸を引いている。同僚の女性と私は、それに気づいたが、気にせずに食べた。日光キスゲ、綿スゲを見ながら、木道を歩き、夕方に山小屋に入った。しばらくすると、10人の内、4~5人が嘔吐し、腹痛を起こした。山小屋で体温計を借り、体温を計ると体温が下がっている。細菌性の食中毒であれば、体温は上がるはずなので、おそらく、黄色ブドウ球菌が産生した毒素による食中毒であろうと考えた。救急車を呼ぼうにも、尾瀬では来ない。ならば、ヘリコプターを頼もう。聞くと大体50万円かかる。うーん。みんなで相談し、腹痛、嘔吐を起こしている人達を観察し、容態を尋ねた。そして、様子をみることにした。
 翌朝、彼らは、リュックを担ぐのは厳しいが、なんとか歩くことは可能と言う。元気な者が、代わる代わる彼らのリュックを背負い、ゆっくりと尾瀬の木道を歩き、来た時と逆の経路でなんとか小田原にたどり着いた。糸が引いたお握りを食べた私ともう一人の女性は何ともなかった。食中毒の人たちには、申し訳ないが、二人でお腹の強さを笑いあった。暑い時期は、列車の棚やリュックの中で温められる状態に食べ物を置いてはいけない。また、救急車が来ないようなところに行くときは、慎重に慎重を期さねばならない。
 38年経った今も「夏が来れば思い出す、はるかな尾瀬」である。大分、脇道に逸れて、とうとう尾瀬まで行ってしまった。
 
 そのようにして、会社生活のスタートを切ったが、あっという間に、実験に明け暮れるようになっていった。力価の高い微生物をスクリーニングするという微生物の改良が初めての仕事である。発酵技術研究所(現在のバイオサイエンス研究所)、この研究所は研究員の自由度が高く、目標さえ間違えなければ自分の考えていることを何でもやらせてくれた。合成は、どんなに収率が上がっても最大100%、微生物は200%にも300%も可能である。当時の研究所の花形は、菌株改良(育種)業務であった。
 
 入社して数ヶ月、実験計画の打合せで、上司との意見が合わず、新入社員ではあったが、机を叩いて怒った。多分、手に負えない部下と思われたのだろう、すぐに上司が替わり、その上の上司の直属になった。新しい上司は、とても面倒見の良い方で、実験計画法、統計など学生時代に学ばなかったことを教えてもらった。
 そして、そこで新しいプロジェクトに加わることになる。新製品の上市への向けての生産性と品質の改良である。二つの研究所と一つの工場、その三つの事業所が競って、培養の生産性を上げ、合成収率に影響を及ぼす類縁物質の成分比を培養の段階から変えるという目標である。
 既存のことに囚われるのを好まないため、これまでのやり方にはこだわらず、ゼロベースで、一から培地と培養条件を組み直して行くこととした。その結果、短期間で他の二つの事業所の2倍の生産性、類縁体も変化させる条件も見つけることができた。27歳、会社に入って一年を過ぎた頃であった。
 このプロジェクトに加わる中、他の研究所や工場にスケールアップの実験に出かけて、不思議に思った。培養のスケールアップをやりたがる人が、ほとんどいないのである。こんなに面白い仕事なのに、誰もやりたがらない。やらないのなら、自分がやろうと決めた。

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