新・医薬品品質保証こぼれ話【第42話】

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話
 

“薬歴管理”の電子化と医薬品不足対策

病院で受診したあと薬局で医薬品を受けとる際、必ず、“お薬手帳はお持ちですか?”と訊かれます。この“お薬手帳”には投薬履歴の他に病歴や副作用・アレルギーなどの情報も記載されますが、目的は言うまでもなく、これらの情報により、医薬品の服み合わせや禁忌などによって患者さんに健康上の問題が生じないよう“薬歴を管理する”ことにあります。この目的を全うするためには、その患者の投薬履歴が漏れなく“データ”として補足されている必要があり、同時に薬局における投薬に際し、この“データ”を的確にチェックし、処方箋に記載の医薬品を交付することに問題がないことを確認することが求められます。

現在の紙ベースの“お薬手帳”(以下、「手帳」)の薬歴管理で、このような目的が十分果たせているかと言えば、必ずしもそうとは言えないのではないでしょうか。高齢になるほど、病院や各科のクリニックの受診頻度も上がり、それに伴い、手帳に張りつけられる投薬シールも増え、手帳の冊数も増えていきます。また、高齢者の場合、紛失など手帳の保管管理面の懸念もあります。さらに、手帳の持参を忘れた際、薬局で貰ったシールを帰宅後、手帳に張りつけることを怠る患者も一定数いるでしょう。こういった状況を総合的に考えると、患者の年齢にかかわらず、投薬履歴が網羅されていないケースも相当数、存在するはずです。

この状況を鑑みると、“お薬手帳”本来の、“患者を医薬品の相互作用などによる健康被害から保護する”という目的を的確に果たすためには、薬歴管理こそ“電子化”し、病院・医院の受診歴とともに個人番号(マイナンバー)に紐付けて運用することが急がれるのではないでしょうか。交通、金融など、社会の基幹システムの多くにデジタル化の進展が見られる中、人の生命維持や健康管理の基礎となる“受診”や“投薬”といった極めて重要な情報が、今だ“お薬手帳”というアナログで管理されている現状はあまりにも奇異に映ります。

望まれる電子化システムの概要は、“診察時に医師がパソコンに入力する診療や処方箋の情報が個人番号に紐付き、瞬時にデータベース化され、インターネットを介して、薬局の薬剤師など医療関係者が端末でリアルタイムに患者固有の受診と投薬の履歴を漏れなく閲覧することを可能とする”ことであり、これにより、新規に投薬される医薬品との照合は勿論、既往歴やアレルギーなどの情報も手元のパソコンでほぼ瞬時に検索・確認でき、投薬による有害事象の発生防止に着実に役立てることが可能となるはずです。こういったシステムを厚生労働省・デジタル庁が主導し、薬剤師会や医師会と連携して推進・構築することが、喫緊の課題として求められているのではないでしょうか。

ちなみに、本稿において“服薬(履歴)”と言わず“投薬(履歴)”としているのは、患者が投薬された医薬品を必ずしも医師の指示どおりに服用しないという問題(服薬の遵守性:コンプライアンス(Compliance)、アドヒアランス(Adherence))があるからです。また、上記のようなシステムの運用に際し、処方箋に記載の医薬品の一部が欠品等により他の類似薬に代替される場合は、医師と調整後、薬局において最終的に投薬した医薬品を“投薬情報”として登録する必要があることは言うまでもありません。


 

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