業界雑感 2017年8月

 東和薬品から、日本で初めて2色で錠剤への製品名印刷を行うとのニュースリリースがあった。対象となる製品はオルメサルタンOD錠「トーワ」とロスバスタチンOD錠の2品目7規格で、剤形写真を見ると、特にオルメサルタンOD錠では割線に合わせた製品名印刷がなされ、分割後も判読が可能(ただし「オルメサルタン」が「オルメ」と短縮されている)となっている。http://www.towayakuhin.co.jp/pdf/news170815-2.pdf 

 ここ十数年の間に錠剤の識別性向上のために開発された「製品名カナ表示」「錠剤裏表印刷」「OD錠への印刷」「割線の方向規制印刷」「2色印刷」などの技術がてんこ盛りの製品となる。
 最初に製品名カナ表示の導入計画を聞いたのは、2005年頃前社で生産戦略を担当しており、グローバル製品の供給戦略として「製剤2拠点、包装ローカル製造」を基本に日米欧の生産拠点の再編を企画していた頃だったと思う。国内でしか通用しないカナ表示のために、日本市場向けと海外市場向けの2種の錠剤印刷を使い分けるのでは生産効率や原価面で課題があると内心は反対していたのだが、顧客の要請という営業部門の主張も強く、黙るしかなかった記憶がある。結果として、東南アジアへの輸出品のカナ表示については、製品名ではなく単なる「模様」と割り切るといった妙な落としどころだった。その後もPTPシートのピッチ送りやバーコード印刷など、製品の識別性・視認性に関する技術開発が続いている。

 セミナーや講演でよく話をするのだが、薬の品質には機能品質と外観品質がある。文字通り、機能品質とは薬本来が持っている薬効、吸収性、体内動態、キット製品など使用性、副作用を含む安全性、不純物とその影響などであり、販売価格の基本となる薬価はこの機能品質によって決められている。一方で、外観品質としては、例えば錠剤でいうと割れ欠けや変色・異物といった見た目でわかる「もの」そのものの不良品は論外として、表示品質といってもいいのだろうか、視認性や識別性などについて多少なりとも薬価に考慮されているかといえば否である。にもかかわらず、錠剤へのカナ印刷は後発品ほど積極的に採用されているように思う。OD錠にして服用し易さを訴求、品名カナ表示で識別性を向上など、本来の機能品質では先発長期収載品と差のつかないための差別化戦略であることは理解できるが、そのために製造コストは犠牲にせざるを得ない。

 自身、実際に薬を服用するようになって、PTPシートのピッチ送りによりシートを割って一錠ずつに分割しても製品名が認識できるようになったのは確かに便利だと感じているが、さらにその錠剤にカナ表示がされているからどうなの? とも思う。ボトル包装品を調剤薬局で分包する際に混同やコンタミがあった場合でも錠剤に品名カナ印刷があれば服用時に患者が気づいてもらいたい、というのなら本末転倒、処方時の確認作業や分包機のラインクリアランスをしっかりして誤処方を防ぐことが第一義で、調剤薬局の問題を患者に押し付けているともいえないだろうか。

 後発品の薬価は先発品の40~50%で今後さらに引き下げられるとの予測もあり、製造原価は更なる低減が求められている。薬の識別性を向上させることが医療機関や調剤薬局、患者にとって有用であることは認めるが、それにより外観品質の付加価値が向上しているとは思いにくい。医療費抑制は日本の喫緊の課題であり、薬価引き下げの圧力は強まっていく中、世界でもトップクラスの外観品質にさらに製造コストをかけていく必要性については議論の余地があるのではないだろうか?

※この記事は「村田兼一コンサルティング株式会社HP」の記事を転載したものです。

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