医薬品設備建設における「オーナーのプロジェクトマネジメント2nd改訂版」【第21回】

21. プロジェクトマネジメントのまとめ

(1)プロジェクトは「人」による
 プロジェクトを適切に進めるための重要なポイントは、「人」である。特にプロジェクトマネジャー(PM)の資質によるところが多い(5項、6項を参照)。製薬業界のプロジェクトエンジニアリングの世界は狭いものである。例えば、A製薬会社のB氏がPMならプロジェクトはスムーズに進むと思えるが、C製薬会社のD氏ならうまくいかない、といった情報が流れるほど狭い業界である。製薬会社に限ったことはない。Eエンジニアリング会社のF氏がPMならスムーズに進むが、GゼネコンのH氏ならよく問題が発生するといった情報も流れる。情報は別として、実際に携わる人次第であるのは事実である。もちろん企業体質も問題ではあるが、同じ企業の中でも人による差が明確にある。
 発注側の製薬企業としては、このプロジェクトに携わる発注先のエンジニアリング会社やゼネコンのPMを指名できればよいが、タイミングや企業の事情があり、なかなか難しい問題である。そこで、見積段階でのヒアリングにおいてPM担当予定の方に質問を行い、スムーズな回答が得られるかなどを判断材料として、このプロジェクトに適している資質かを見抜くことも重要なステップである。とにかく、「人」による問題が起こってから対処するのでは時間的に間に合わない。
 一方、受注側が製薬会社のPMを選択することは不可能である。よほど裏工作のできるほどの強いパイプを持っている場合は別であるが、通常は、受注側は何も言えずに発注側のPMに従わなければならない。明らかに問題が発生する可能性が高いような指示を発注側のPMがおこなった場合に、受注側は問題点を明確にして発注側を説得する必要がある。あるいは問題が発生するかもわからないが、発注側のPMの指示どおりに従うといった場合もある。このように「人」および「人との関係」がプロジェクトに大きく影響する。
 発注側のPMは、受注側の意見具申に耳を傾けるように努力しなければならない。しかしすべての意見をすべて受け入れるのではなく、客観的にその意見を判断できる資質を要する。受注側の意見に対して、その意見を取り入れない理由を、明解に説明できることも重要である。
医薬品製造プラントは既製品ではなく、プラントごとに異なるものであり、まさしくハンドメイドであり、「人」が作り上げていくものである。工事や製作に使用するボルト一本のミスがあっても大きな影響が発生する。まさに、「人」しだいである。

(2)プロジェクトはステップバイステップで進める
 プロジェクトはステップごとにチェックしながら、次のステップへと進めていく必要がある。すなわち、ステップごとにチェックしながら進めていくことにより、後のステージになってからの前戻りを防ぐためである。プロジェクトを知らない人が、後のステージになって基本事項を平気で変更することがよくある。とんでもないことである。下手をするとプロジェクトは振り出しに戻る場合もある。これまで進めてきたプロジェクトに掛った時間とコストも無駄なものになる。
 プロジェクトマネジメントの重要な項目の一つとして、決定事項と未決定事項の管理がある。何となく会議で話題になったから、決定したのかと思い込んでいるが実はそうではないことがよくある。議事録には決定事項と未決定事項を明記し、それを承認するシステムを採用すべきである。また、未決定事項を誰がいつまでに対処するかということも明記しておくべきである。
 検査やテストもステップごとに進める必要がある。例えば、ステップごとの工事検査を省略し、完成した時点で検査をしたとしよう。配筋検査のような完成した時点では実施できない検査もある。通電する前に実施すべき検査を省略すると大事故にまで至る。また完成した時点の検査で不合格となると、工事のやり直しとなってしまう。したがって、検査やテストというのは必ずステップごとに進めるべきものである。
 以上のように、プロジェクトではステップことのチェックを省略してはならないのである。

(3)競争見積りに間違いがある
 多くの製薬企業の競争見積りにおいては、競争できる状態になっていない。すなわち、価格競争を目指しているなら、仕様を同一にして価格の比較をしなければ、無意味であるが、ほとんどの製薬企業はその仕様を詳細に決めていない。ハイグレードな仕様であれば高価格となるのは当たり前のことであり、発注側の製薬企業が仕様を指定しなければならない。
 また、発注先からの提案の優劣と価格との総合比較をできる製薬企業も少ない。結局、見積書上の最安値のところに決めているのが実情であり、公正な競争見積りにはなっていない。しかも、見積金額に含まない項目の認識が甘く、後になって驚くような追加請求書が出てくることになる。
 発注側の製薬企業の事情をよくわかっている発注先は、競争見積仕様書に記載がなくても発注側の隠れた仕様を満足することになり、高い見積りを出すことになる。一方、発注側の事情を知らない発注先は、競争見積仕様書に記載のないことは見積りには含めないため、安い見積りとなってしまう。
 正確な競争見積仕様書を作成できない製薬企業が、競争見積りを好むなら、この仕様書作成を外部に依頼するべきである。あるいは競争見積りを諦めて、事情のわかっている発注先とアライアンスを組んでプロジェクトを進めるのがよい。

 

 

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