化粧品研究者が語る界面活性剤と乳化のはなし【第2回】

O/Wか、W/Oか・・・ エマルションの種類と機能

 お店に行くと、ほんとうにたくさんの種類の「エマルション型化粧料」、いってみればクリームやローションが置かれています。どれもなんの変哲もない「化粧品」であったりするわけですが、実はそれぞれに個性があって、商品開発の研究者達は、最先端の科学技術を利用し、絶妙な技を駆使して、ひとつひとつのアイテムを仕上げているのでした。今回はわれわれ化粧品研究者の製剤設計の考え方とテクニックについて紹介します。

 化粧料に使われるエマルションのほとんどは、水の中に油滴が分散した「水-中-油型エマルション」(O/W型エマルション)または、油の中に水滴を分散した「油-中-水型エマルション」(W/O型エマルション)のどちらかです。界面化学の教科書を見ると、O/W型エマルションの例として牛乳、マヨネーズ、ローション、乳液が、W/O型エマルションとしてバター、マーガリンが挙げられます。そう、水が連続相のO/W型はさっぱり&みずみずしく、油が連続相のW/O型はオイリーで水をはじく撥水性を示すのです。この連続相によるキャラの違いはかなり徹底していて、多量の水を含むけれども連続相が油の高内水相W/O型エマルションは、水相が90%以上の時もきちんと水をはじく撥水性を示し、汗に負けない化粧効果の持続性を示すのでした[1]。

 W/O型エマルションの撥水性の効果は本当に強力で、この剤型を利用すると汗をかくとあっという間に崩れてしまっていたメイクが、何時間もきれいな仕上がりを保つことができることはむか~しから分かっていました。しかし!この油の中に水滴が分散した状態を長い期間保持することが難しかったために、なかなか実用化することができなかったのです。なにしろ、化粧品を商品として発売するためには、室温で保存した時に何年間もエマルションの状態や液体の流動性を示す粘度が保たれていなければなりません。また、この状態を無理やり安定化させるために、どろどろの油を配合すると、ひどくべたつくクリームが出来上がってしまうのでした。
 
 この難題がようやく解決され、W/O型エマルションが実用化されたのが、1970年代でした。資生堂のグループは油の中に水の微粒子を入れても沈まないように、油をジェル状にして水が動かないようにしたのです[2]。アミノ酸を溶かした水と、天然由来の界面活性剤「グリセリン脂肪酸エステル」を合わせたことにより、「ゲル化乳化」が可能になりました。さらに、乳化のために配合した「アミノ酸」は、肌を保湿する効果も高いことが示され、国際化粧品技術者会という化粧品業界で最も権威ある学会で賞を受けることになりました。その後、この技術はクリームの処方で実用化され、現在でも多くの商品で幅広く活用されています。

 いったん、「W/O型エマルションで化粧品を作ることができる!」といいうことが分かれば、あとはいわゆる「コロンブスの卵」状態・・・。あれよ、あれよという間に各社が新技術を開発し、実用化していきました。

 同じく資生堂のグループからは、地下から取れる粘土鉱物を使ってエマルションを作る技術が提案されました[3]。スメクタイトという粘土鉱物から調製した「有機変性粘土鉱物」は流動パラフィンなどの化粧用油剤中で界面活性剤と複合体を形成してオイルゲルを構築すること、このオイルゲルに水を加えて乳化したW/O型エマルションは、べたつきが少なくて肌なじみがよく、感触のクリーム   やファンデーションなどに活用できることが見いだされたのです。
 

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