ある老兵の視点【5】

FDA、承認前査察(PAI)の新ガイダンス導入

FDAが承認前査察(PAI)プログラムを正式に導入したのは1990年のことである。その直接の契機となったのは、1980年代後半に米国医薬品業界を揺るがしたジェネリック医薬品スキャンダルであった。当時、一部の製薬企業において、承認申請データの改ざんや捏造、さらにはFDA審査官への贈賄といった重大な不正行為が次々と発覚した。この事態を重く見たFDAは、書面上の申請データのみを信じて承認可否を判断する従来の審査体制に限界を悟り、製造現場の真の姿を直接確認するための強力な手段としてPAIを制度化した。

この歴史からわかるように、PAIが導入された主たる目的は二つある。第一は「データインテグリティの検証」である。申請書に記載された処方、製造プロセス、試験方法、安定性データなどのすべてが、実際の製造現場で不正に操作されることなく正確に取得され、記録されているかを徹底的に監査することだ。第二は「商業生産への準備状況の評価」である。研究開発や治験薬製造の小規模スケールから実際の商業生産スケールへと移行するにあたり、該当施設がCGMP要件を遵守し、一貫した品質で安定的に医薬品を供給できる能力と設備体制を備えているかを承認前に見極めることである。
この歴史的背景を踏まえ、QA担当者が実務で強く意識すべきポイントは、PAIが「提出されたデータに対する不信」から誕生した規制の枠組みだということである。2026年8月10日に施行されたPAIの新ガイダンスでは、リスクベースアプローチや遠隔規制評価などの代替手段の活用が打ち出されている。しかし、これは決して規制が緩和されたことを意味するものではない。むしろ、現場での直接的な対話の機会が減る分、データの信頼性に対する審査の目はより一層厳格になると考えるべきである。

 

 

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