医薬生産経営論・特別編【第4回】

第4章 もう、恨まない。
 
今年、ローカル企業で、最も世間から悲劇的に、或いは、理不尽に叩かれた企業は、富山県の有名な某機械メーカーであろう。
この富山発祥の世界的な企業の会長が、「富山の企業や社会は閉鎖的である。従って、当社は、大学卒業者の採用では、富山の大学を卒業したものは採用を抑制する。但し、工場のオペレータは富山から採用する」と発言したことが、大いに傲慢であるとして、地元の富山県の政財界のみならず、全国ネットのテレビ情報番組でも、厳しく追及された。ある情報番組では、旦那が騎手であったコメンテータなどは、「差別」問題というレベルにまで、この発言を発展させた。自称リベラルの人たちの格好の餌食とされてしまった。非現実的な人権主義者とマスコミ権力がタッグを組めば、誰も勝負にはならない。そして、卑怯だと思う、最近のマスコミの情報操作や印象操作は時々、度が過ぎる。
余談だが、私は呆れ果てて、自宅での新聞の購買を止めた。だが、止めるのも大変で、新聞の営業マンたちが嫌がらせのように、入れ代わり立ち代わり家にやって来る。大幅な購読価格のディスカウントの提示も受けたが、断った。古新聞を廃棄する労力と、毎月4,000円強の購読料を考えれば、新聞は要らない。ネットと雑誌で十分。新聞各社は2019年10月の消費税率(10%)改正時に、軽減税率(8%)適用を政府に要望しているが、日常生活に不要なものに、なぜ、軽減税率を適用する必要性があるのか、全く分からない。新聞販売店はチラシ広告だけを配布することで収益を上げる生き残り策を検討した方が良い。新聞購読を止めて、私が寂しく感じたのは唯一つ、チラシ広告が見られなくなったことである。新聞社を悪く言いたくはないが、チラシ広告だけは、本当に、有意義な日常必需品である。
本論に戻る。
この指摘を受けてからかどうかは分からないが、富山労働基準監督署はコメントを発表し、「出身地域を理由に採用を拒否することは法に抵触する可能性がある」とした。まことに、大袈裟な話で、何の法律だか知らないが、拡大解釈が極めて著しい。再度の余談だが、今年の総選挙中、急に、立憲民主という政党が出来、標榜する思想である「リベラル」とはどんな意味かがマスコミで話題になったことがあるが、日本の「リベラル」とは、「空想的人権主義」と理解した方が良いと思う。要は、いろいろ騒ぐが、非現実的で、理屈に拘り、大袈裟に人権を主張する思想である。いかなる犯罪者も必ず更生が出来、いかなる理由があっても死刑は認めないという空想的思想である。単に、自由主義者という意味ではない。さらに、少し前の時代までは、北朝鮮は理想的な国家、格差のないユートピアだと信じ切っていた思想なのである。確かに、北朝鮮の国民の大部分は貧し過ぎて、格差は存在しないであろう。
企業がどこの地域からどんな人を採用するかは、原則として、自由であり、企業の経営戦略である。工場オペレータは富山全域から採用すると言っているのだから、「出生」に関する差別ではないことは明白である。今日の企業で、そんな差別を意識している企業などは存在しないと言って、過言ではない。
ところで、騎手の女房だったコメンテータの方に聞きたい。あなたは、富山の地域的な特質を十分に承知した上でコメントしているのかと。富山企業の特質や文化を知らずして、一般論から、また、教科書通りに、富山企業の経営信条、経営戦略を批判するのは、間違っている。某機械メーカーは、既に十分、富山経済にも日本経済にも貢献しており、競争力あるグローバル企業であるが、さらにグローバル市場で発展するためには、もっと多様な人材が欲しいということと、富山の人たちには、その閉鎖性とローカル・コミュニティの縛りから脱してオープン・コミュニティを作って欲しいと願って、敢えて発言しているのである。某在野政治団体の代表者の二重国籍問題の時は「多様性を尊重すべき」として、代表者の嘘に対してさえも非難しなかったテレビ情報番組が、多様性を求めて採用方式を変更するローカル企業を追及することは、ダブルスタンダードであり、非常に滑稽なことである。TBSテレビ番組『サンデーモーニング』のように、画面を盛大な生け花でいくら飾っても、隠し切れない終末感、寂量感路線を追随するつもりなのだろうか。
富山地域でのキャリアが長い私は、某機械メーカーの会長の発言の趣旨を、その通りであると、強く支持する。少なくとも私は、富山の製造企業のいくつかでのコンサル経験があり、閉鎖性を頗る、実体験したからである。
ローカル企業の特長のひとつは、そこで働く従業員の人たちがローカル・コミュニティとの関係を非常に大切にすることである。私たちは、学閥と言うと、大学の同窓の集まりをイメージするが、ローカルでは出身高校が中心である。地元の、大学進学率の高い、偏差値の高い高校の卒業生ほど同窓(地縁)意識が強く、卒業年次の序列を正しく守る。他県出身者がその関係に割り込み、恩恵を受けるのは、極めて困難である。従って、学歴差別、男女差別を排除しようとしても、企業や地域社会の奥深くで学歴差別や男女差別が厳然と存在しているのだから、企業がこうした差別や序列を解消することは、膨大な労力や時間を要する。ローカル・コミュニティの中で、卒業年次を超えて、学閥から離れて、優れた若いリーダーが出現することは有り得ないと思われる。リーダーになって皆に批判され、叩かれるよりも、じっと大人しくしていれば、時期が来れば、それなりの美味しい役目が回って来るからである。
ローカル企業の中、ローカル・コミュニティの中では、「出る杭にならない」「目立つことはしない」「先駆けしない」ことが、極めて重要な成功の要因であって、どんなに企業が鼓舞したところで、どんなにニンジンを眼前にぶら下げたところで、悲しいかな、それに飛びついて来る「奇人変人」はいない。

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます