化粧品研究者が語る界面活性剤と乳化のはなし【第1回】

古くて新しい乳化の世界

「将来、化粧品を作る仕事に就きたいのですが、どんな勉強をしたらいいですか?」
 
 仕事がら、高校にお邪魔して、化粧品の科学についてお話しすることがあります。そんな時、「先生、〇〇〇って、ほんとに効くんですか~」と並んで、かなりの確率で出てくるのが、この質問だったりします。(注: 〇〇〇はテレビなどでよく広告がされているニキビ用スキンケア化粧料の商品名)
 
 ・・・これ、答えづらいんです。高校の先生的には、「化粧品は身体に塗ったりして、健康を左右するものなので、化学と生物をしっかり勉強してください!」が正解かもしれないのですが、実際には、化粧品の商品開発の現場には、皮膚の光学特性をモデリングする物理屋さんとか、香りが気持ちにどんな影響を及ぼすかを調べている心理学者、ヒトの皮膚をコンピューター上に再現する技術を開発しているIT技術者などなど、いろ~んな研究者がいて、寄ってたかって化粧品の開発に取り組んでいる、そんな状況なのです。実を言えば、機械とか電気の勉強をして、製造の現場で活躍する、化粧品業界で成功するためには、そんなシナリオもあったりするのでした。

 そんな混沌とした状況の中で、例外なく化粧品メーカーが力を入れ続けてきた研究の分野が2つあります。一つ目は「皮膚科学」。ヒトの皮膚や毛髪はどんなモノでできていて、どんな構造で、外部からの刺激に対してどんな風に応答するのか。世界中の化粧品メーカーは何十年も時間とお金をかけ、この問題に取り組み、その結果に基づいて化粧品を作ってきたのでした。

 もう一つの分野が「界面化学」、つまり「水と油の境界面のような「界面」で生じる現象を物理化学的に体系づけた化学の一分野」です。・・・(なにそれ!!!)という、みなさんの心の声が聞こえそうですが、これ、化粧品業界では大切なキーワードなのです。

 要するに、こういうことです。

 化粧品って、作るの難しいんです。皮膚や毛髪をなめらかに、美しくするだけじゃなく、香りや塗り心地もよく、長期間保存出来て、もちろん、安全・安心なものでなければならない。さらに最近は、ひとつひとつの効果・効能が科学的なエビデンスに裏打ちされたものでなければ相手にされません。

 そんなたくさんの要求をすべて満たすためには、いろーんな成分を配合ことが必要になってきます。皮膚を保護し、その状態を改善するお手伝いをする、いわゆる「スキンケア成分」は、多くの場合、水に溶けづらい「油」なので、これを水の中に分散した「乳化物」(英語ではエマルション)や無理やり溶かし込んだ「可溶化物」を作ることがどうしても必要なのでした。
 

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