省令改正案検討の経験からみるGMP省令改正のポイント【第7回】

本文では安定性モニタリングと製品品質の照査、コラムではQ9R1 Step 2ドキュメントを解説します。

安定性モニタリング(第11条の2)
 安定性モニタリング及び製品品質の照査(第11条の3)は、2013年8月30日の薬食監麻発0830第1号の通知で追加された項目が省令にいわゆる格上げされてきたものです。安定性モニタリングを行う医薬品を、品質リスクの評価結果に基づいて選定することから、リスクアセスメントの結果がなければならないということになります。事例集(現時点では2013年版)のGMP 11-66から、毎年の少なくとも1ロットが選択されていることが必須ですが、筆者の経験から、手順書に規定されている範囲であったり、合理的根拠があれば必ずしもその年の最初のロットかどうかといったことにこだわりません(課長通知p41参照)。事例集の同項で、安定性に影響を及ぼす変更や逸脱処理したロットを計画に追加することとなっていることから、合理的にこの追加が判断されていること(追加しない場合はその根拠)が確認されることになるでしょう。試験項目も基本的には裁量の範囲となりますが、課長通知には保存により影響を受けやすい項目及びOOSとなった場合に有効性又は安全性に影響を及ぼすと考えられる項目は選定することとなっていることに留意する必要があります。選定の根拠は、品質リスクの評価結果とともに、省令第11条の2第1項第5号に定める記録として残すよう求められます。
 保存条件について、一般的な(通常室温保存を意味する)原薬や製剤は原則として25℃±2℃、相対湿度60%±5%が求められますが、2013年に事例集が発出された時点で、「当面の間」は承認条件による保存を認めるとなっていて、いわゆる成り行き室温で保存されるケースがよくあります。この「当面の間」については解説がないため、そのまま継続しているところもあるかと思います。事例集を検討した当時の厚労科研班での議論では、環境試験器を揃える等試験環境を整備するに時間がかかるだろうとの配慮からこのような表現になったという経緯を聞いていますが、その整備はできるだけ速やかに行われるべきとの想定で、半永久的に延ばすことを想定したものではありません。筆者が企業のQAだった頃、年間気温からラフに平均動態温度を計算したことがありますが、例えば東京の年間気温(平均値)の推移であれば平均動態温度は18℃~20℃程度で、成り行き室温の場合は25℃よりマイルドな保管条件となる場合があることに留意する必要があります。昨今のジェネリック医薬品のように安定性モニタリングで問題が発生している事例をみるに、本来規制が求める条件に速やかに改善していく必要があるでしょう。
 安定性モニタリングで従前より求められる重要な点は、事例集GMP 11-77にあるように「継続的プログラム」に従った安定性モニタリングであることが求められます。このことは、試験実施の都度トレンドを推定し、使用期限内/有効期間内にOOSが発生する等の品質問題が予見されるかを確認し、事前に適切な対応をとる体制をもつことを意味します。これが課長通知(p42)では、例えば、有効期間中にOOSを生じる可能性を示唆する傾向がある場合には最終製品たる医薬品の製造業者等は、所用の措置(製造販売業者への速やかな連絡等)をとることとしています。筆者の経験では、この傾向の察知に関する時間軸は、企業側は比較的遅めに、当局側は比較的早めに考えているといった乖離があるように推察されますが、一般的にはいわばフェールセーフの判断が要求されるでしょう。
 安定性モニタリングのもう一つの側面は、バリデーション指針(2021年8月1日施行)にあるように再バリデーションを考慮することに留意する必要があります(バリデーション指針 再バリデーション参照:後述)。

製品品質の照査(第11条の3)
 製品品質の照査のポイントは、この業務がQAによって行われるということと、製品品質の照査が行われた後に省令に定められた措置がとられることです。製品品質の照査後の措置には、第1項第2号の製造管理者への報告並びに第2項の改善を要する場合の対応及びバリデーションの判断があります。製造管理者への報告については、報告を受けた後の製造管理者の行動がキーとなります。課長通知は、製造管理者に対して第5条第1項の第1号及び第2号の行動をとることを求めています。すなわち、製造所において製造・品質関連業務が適正に行われているか、ひいてはPQSが回っているかを製品品質の照査の結果からチェックすること(第1号)、PQSの運用状況に改善を要する場合、製造業者等に対して文書で報告がされること(第2号)です。ここで「製造業者等」は、省令では上級経営陣を指します。バリデーションの判断は、課長通知では「第13条に規定するバリデーションを行うこと」のみ記載されていますが、バリデーション指針の再バリデーションの項には、その必要性、時期及び項目について安定性モニタリングの評価や製品品質の照査等の結果を踏まえ、製造業者等が定めることとなっており、バリデーションの判断との関連が示されています。必要性を判断した場合は規制上記録として残りますが、必要性がないと判断した場合は規制上残すようには書かれていません。しかし、意思決定が第三者に対して不明となるので、製品品質の照査の結論に判断結果が書かれることが期待されるでしょう。
 製品品質の照査後の措置の残る重要な点は改善を要する場合の対応です。バリデーションを要する場合も含め、改善を要する場合は、製造業者等は製造管理者からの報告(上述の第5条に関する動き)を踏まえ、所用の措置を講ずることが求められます(措置の例も含めて課長通知p43参照)。これは、上級経営陣が改善等措置に対応することを求めていることに留意が必要です。安定性モニタリング及び製品品質の照査から上級経営陣の動きに至る一連の作業がうまく動いていない場合、PQSの実効性がない(第3条の3に直結)ということになるでしょう。
 PQSガイドラインでは、マネジメントレビューの情報の一部として製品品質の照査結果が提供されることを求めています。しかし、全ての情報を処理することは難しいとの意見もあり、これは理解できることです。その場合の考え方はリスクベースであり、これを判断するのは上級経営陣又は業務分掌している場合は下位の経営陣になります。この事例は雑誌に載せているので、ご参照ください⑴。

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