医薬品モノづくり現場の履歴書【第5回】
本連載は、製薬企業での工場長経験者より、次世代を担う皆さんに贈る「生きた教科書」を目指します。マニュアルや計算式だけでは語れない現場のリアルな教訓をお伝えするため、経験談をベースに、関係者や特定ケースが分からないよう創作を交えた「読み物」としてお届けします。
また、本連載は異なるキャリアと専門性を持つ2人の元・工場長による二つのストーリーを交互に掲載します。
(1)『失敗から学ぶ現場学』(執筆者:南都下 史朗)
(2)『モノづくり人生の哲学』(執筆者:モノづくり伝道師)
アプローチは異なりますが、2人に共通するのは、モノづくり現場への「深い愛」と、プレッシャーの中で奮闘する皆さんへの「熱いエール」です。
この記事を読んだ後、隣のメンバーや、グループ内で意見交換するなど、コミュニケーションのツールとして利用いただけると嬉しく思います。
今回は『失敗から学ぶ現場学』です。
失敗から学ぶ現場学
ケース03:熱交換器の設計は安全係数次第!
若手技術者・研究者・現場担当者の皆様、日々の業務、本当にお疲れ様です。
今回は、エンジニアや研究者の多くがぶつかる「理論と現実のギャップ」についてお話しします。
学生時代に猛勉強し、数式や理論を叩き込んできた優秀な皆さんだからこそ陥りやすい、「机上の計算」の落とし穴。そして、現場の先輩たちが持つ「経験値」という名の見えない財産の物語です。
■得意分野での初陣。完璧な「理論値」への自信
これは、ある若手技術者が入社して数年目、プロセス設計の部署に配属されて間もない頃のエピソードです。
その日、彼に任されたのは、医薬品の製造プロセスで使用される「熱交換器」の伝熱面積を計算し、仕様を決定するという重要なタスクでした。熱交換器とは、温かい流体と冷たい流体を交差させ、目的の温度まで冷却(または加熱)するための必須設備です。

「熱移動の計算なら、学生時代から一番得意な分野だ!」
彼は心の中でガッツポーズをしました。大学の授業で何度も解いた熱力学や伝熱工学の知識が、ついに実務で活かせる時が来たのです。
必要な交換熱量を算出し、流体の物性値を確認し、総括伝熱係数を導き出す。ノートと計算ソフトを行き来しながら、彼は必死で計算を行いました。一般的な熱交換の基礎方程式である Q = U A Δ Tlm(交換熱量=総括伝熱係数 × 伝熱面積 × 対数平均温度差)を駆使し、導き出された必要伝熱面積。何度見直しても、計算に一切の狂いはありませんでした。
「安全係数1.2」が示す、無駄のないスマートな設計
しかし、理論上の伝熱面積をそのまま採用するわけにはいきません。設計には必ず「余裕度」を持たせる必要があります。ここで彼が設定したのが「安全係数 1.2」でした。
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