スタートアップバイオベンチャー経営(栄一の独り言)【第7回】

今回は、「核酸医薬の事業化を目指すスタートアップベンチャー企業」へ向けて「自社の強みを深掘りすると新たな進むべき道が見えてくる」と題してお話をします。

世界をコロナ渦から救ったmRNAワクチンに日本の醤油メーカーが大きく貢献しているのをご存じでしょうか? それは、ヤマサ醤油がファイザーやモデルナにシュードウリジンを提供しmRNAワクチンの製造に大きく貢献しているというお話です。

以下、ヤマサ醤油のプレスリリース(2021年10月12日付)からの引用です。
「シュードウリジン」は、新型コロナワクチンのmRNA(メッセンジャーRNA)を構成する物質の1つで、私たちの体の細胞にも存在していますが、 mRNAを体内に投与すると、免疫反応により炎症を起こすことから、ワクチンや医薬品としての実用化は難しいと考えられていました。しかし2005年、新型コロナウイルスのmRNAワクチンを開発研究したドイツの製薬大手、ビオンテックのカタリン・カリコ上級副社長と、アメリカ・ペンシルベニア大学のドリュー・ワイスマン教授の2人は、mRNAをこの「シュードウリジン」で構成すれば炎症が抑えられるという論文を世に出し、「シュードウリジン」で構成されたmRNAを使うことで、免疫機能を回避し、目的のタンパク質を生成する、効果の高い新型コロナウイルスワクチンが開発されました。
ヤマサ醤油は「うま味」の研究から発展させ、1970年代から50年以上にわたって、核酸関連物質の研究を続けており、1980年代からは修飾核酸の一つであるシュードウリジンを医薬品原料として海外に輸出もしていたことから、今回いち早く増強した生産能力を準備することが出来、現在もフル稼働で世界中のニーズに応えています。」

                                 ビオンテック上級副社長のカタリン・カリコ(左)と
                               米ペンシルベニア大学のドリュー・ワイスマン教授


ここからの学びは、自社の主要製品、「醤油」の「うま味」の研究から50年以上も核酸関連物質の研究を続けている中で核酸化合物、シュードウリジンを医薬品原料として海外に輸出もしていたことが起因となり、今回のmRNAワクチン合成用途に繋げたことです。誤解されないように追記しますが、シュードウリジンは醤油やつゆには使われていないそうです。ヤマサ醤油は、約30億円を投資して2022年中に銚子工場(千葉県銚子市)で生産ラインを増設し、シュードウリジンの供給力を現状に比べて2倍にするそうです。「異業種参入へのきっかけが、自社の強みの深掘りにあった」とても良い事例だと思います。ヤマサ醤油社は、長年にわたり複数の原料を用いて「うまみ」を追求する過程で、高度な醸造技術を磨いてきました。その技術の有効活用として、核酸化合物の研究やそれを活かした関連製品の製造に取り組み、今回の成果に繋がりました。つまり、保有する経営資源を有効活用することで、コスト管理と異業種参入が可能となりました。「複数事業で経営資源を共有することで経済性を高める」ことの大切さを物語っています。

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます