【第1話】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話
 

“設備機器の維持管理”と“人命の安全確保”

小林製薬の紅麹製品の服用者に腎障害を発症した事案は、今なおその原因が明らかにされていませんが(2024.4.15現在)、原因の一つとして、培養タンクの老朽化や維持管理の不備などによる設備面の不具合が指摘されています。紅麹の製造工程は、大きくは、“紅麹の培養工程”(前工程)とその後の“製剤化工程”(後工程:乾燥・粉砕・混合・バルク保管・打錠・充填・包装など)の二つで構成されていると推測され、後工程は医薬品の錠剤の一般的な製造工程と概ね変わりないと考えられます。この前工程において、もし、培養タンクの老朽化等が原因でタンクに微細な亀裂を生じていた場合、そこからの微生物の侵入による培養中の紅麹への汚染が懸念されます。

しかし、もしこのような経緯で微生物汚染が生じていたとしたら、培養完了後のタンク内に生成された紅麹や、乾燥・粉砕後の紅麹原末の性状や官能面(色や匂い)に何らかの異常が生じ、作業者がそれに気づくのではないかと思われます。ただ、汚染の程度などにより、作業者が気づくほどの性状等の変化をもたらさないケースも考えられることから一概には言えません。

もう一つの原因として示唆される、培養以後の乾燥・粉砕・混合等の工程(後工程)における汚染については、紅麹原末の乾燥条件の管理(乾燥終点の管理、原末の含水率の管理など)、およびこれら工程に使用される設備機器の洗浄・消毒・乾燥等が検証された手順に基づき的確に実施されていれば、その可能性は低いと考えられます。ただ、万一、紅麹原末の含水率等、品質を確保する上で必要となる管理要件が基準を逸脱し、なおかつ、粉砕や混合工程の機器の洗浄等、衛生管理が不十分な場合においては、後工程における微生物汚染の可能性も否定できません。

また、そういった好ましくない条件下に粉砕・混合等が行われた紅麹原末が、次の打錠工程に供されるまでの保管条件や保管時間などの管理状況も汚染に関係する可能性が考えられます。つまり、打錠前の中間製品たる紅麹原末の保管に関し、品質安定性確保のための検証が行われ、それに基づく管理基準に沿った対応が厳格になされていたかどうかという点が問われ、これについても確認が必要となるでしょう。ただ、近年のこの種の機能性食品はその剤型や製造工程の医薬品との類似性から、医薬品の固形製剤に近い管理手法(GMP準拠)が適用されているのが一般的であり、この状況から推して、本件において培養以降の工程における微生物汚染の可能性は低いと推測されます。

さらに上記の考察に加え、粉砕・混合工程に使用される設備機器が一般的に乾燥状態で維持管理され、これら製剤化工程が全体として乾燥状態で進行することを考慮すると、よほどの衛生管理上の不備がない限り、この工程での微生物汚染は考えにくいと思われます。従って、もし、これら工程で紅麹原末に汚染が生じていたとしたら、上記のように原末の含水率が基準値より高かった可能性など、原末側の品質管理の問題が危惧されます。以上を総合すると、予断は許されませんが、今回の紅麹製品の品質問題の原因は前工程、後工程双方の可能性が否定できないものの、前工程の培養工程における汚染の可能性がより高いと推察されます。
 

 

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