2017.09.01.FRI

品質システム(PQS)

製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方【第6回】

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執筆者:浅井 俊一

製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方【第5回】

製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方

第6回 環境整備とヒューマンエラー

労働環境や作業環境を整えることは、作業者が安心して作業することにつながります。「安心」はモチベーションの基礎と言えるものであり、安心して作業できる職場では、最低限のモチベーションが確保され、冷静さや集中力が維持されやすく、ヒューマンエラーの発生が少ないと言われています。従って、環境を整えることはヒューマンエラー対策の観点から非常に有効と言えます。
 
「環境の整備」には、工場施設や機械設備などハード面と組織体制や人事などのソフト面があります。そして、ヒューマンエラー対策という点では、この両者が重要になります。ハード面では、空調や作業しやすい製造機器の配置など、ソフト面では、機動的な品質保証体制や公正な人事制度の構築、また、福利厚生など、様々なことが考えられます。先に述べた良好なコミュニケーションやモチベーションの確保なども、こういった環境の整備状況と関係します。整備された快適な労働環境では、自ずと作業者のコミュニケーションも良好になり、モチベーションも維持しやすくなります。
この“快適な労働環境”には職場の人間関係が良好であることも含まれます。人間関係が良好であればコミュニケーションも良好になり、必要な情報の共有も円滑に行われモチベーションの維持にも寄与するでしょう。逆に、人間関係に何らかの問題のある職場はハード面の整備が行き届いていても、決して快適とは言えません。
 
このように、ヒューマンエラー対策の観点から環境整備を図る場合、人間関係の問題を避けて進めることはできません。管理者はこういった面にも目を向け、現場に出向き職場の皆さんが機嫌よく業務を進めているかどうかを観察し、もし、何か問題のある気配が感じられたら、その職場のリーダーに状況を確認するなど、日頃から心がけて対応する必要があります。
 
冒頭、環境整備にはハード面とソフト面の2つがあり、この両者とも重要であると述べましたが、これらのうち組織的な問題によりもたらされるヒューマンエラーは「組織エラー」と言われ、ミスを起こした当事者が原因のエラーを意味する「当事者エラー」と対比して使用されます。現在、GMPの強化や行政の指導もあり、多くの製薬工場ではハード面の整備は進んできていますが、ソフト面に目を向けた組織の環境整備はまだ十分と言えないのではないでしょうか?
組織エラーの原因の多くはソフト面の課題であり、その要素は非常に広範で、日常、水面下にあり見えにくいのですが、トラブルが発生した場合は組織の様々な課題に目を向け、問題点を洗い出しその原因を検証する必要があります。その過程を省略し、水面下に隠れた組織の問題を放置したままにすると、同じトラブルが再発する可能性が高くなります。
 
ちなみに、ハード面、ソフト面を含め、組織エラーを防止するために配慮すべき事項としては次のようなものが考えられます。
合理的な設備機械の配置や動線、また、必要な注意喚起表示などを含めた作業環境全般の整備、5Sの徹底、機械設備のメンテナンス、作業し易い着衣・装具、作業手順の合理性、業務の質/量と適材適所を意識した人員配置、教育訓練のあり方、無理がなく変更の少ない生産計画、メンタルヘルスへの配慮、その他マネジメント全般の課題。

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浅井 俊一

浅井 俊一

1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。