2013.04.22.MON

原薬

偽薬事件から、APIの品質保証を考える(1)

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執筆者:森川 安理

2011/62/EUという法律

ニュース(2013年6月18日加筆)
 
 記事にあるように、2013年7月2日からEUへのAPIの輸出に、規制がかかります。輸出国の規制当局が発行した、EUと同等のGMPで原薬を製造しているという証明書がないと、EUに原薬を輸出できなくるのです。規制がかかるまでに、残り数週間という時点で、日本が申請していた例外申請が認められました。スイス、オーストラリアに次いで3番目に認められたのです。(文献4)日本の原薬業界としては朗報です。
 
 一方、EUに大量の原薬を輸出しているインド・中国はどんな動きをしているのでしょうか?インドは、CDSCO (The Central Drugs Standards Control Council) が、証明書を発行する企業を発表しています。(文献5)EUもこのリストを歓迎しています。(文献6)中国の原薬メーカーは、ドイツの Blue Inspection Body GmbHというGMP査察請負業者に証明書を発行をしてもらい、これを持って輸入申請しようとしています。(文献7)この会社のHPには、中国語で案内が書かれています。中国のGMP査察がビジネスになるということのようです。
 
 2011/62/EUによって、EUへの原薬輸入が滞り、EUの医薬品が不足するのではないか?という懸念がささやかれていますが、中国・インドの原薬メーカーのふるい分けが色々な形で進行し、品質と量の両方の確保が進んでいるように思います。さて、いよいよ7月2日がもうすぐそこまで来ています。EUの原薬市場がどんなことになるのか?私たち原薬業界に従事するものを、固唾を飲んで見守っていく必要があると思います。
 
 2011/62/EU というEUの法律を聞いたことがあるでしょうか?EUでのGE(Generic)原薬ビジネスの枠組みを変えてしまうことが予想されているルールです。(文献1)
 
 この法律によれば、EUに輸入されるすべてのAPI(Active Pharmaceutical Ingredients)は、2013年1月2日からは、EUのGMP基準と同等の基準(ICHQ7)を満たす製造工場で生産されなければいけない。また2013年7月2日からは、輸出国の当局が、当該APIの製造工場がEUのGMP基準を満たしていることを証明する書面がないと、EUにAPIを輸入することができないというのです。
 
 この法律は、いろいろな波紋を起こしております。EUGMP Part2は、ICHQ7をベースに作られておりますが、ICHQ9で示されている品質リスクアセスメントの項目が追加されており、ICHQ7を満たせばOKではないと当初考えられました。しかしながら、EUは、本法律のQ&Aにて、ICHQ7基準であれば、OKであることを公表しています。(文献2)
 
 一方、この規定に関しては、輸出国の原薬GMP管理基準がEUと同等である場合、EUに申請して認められEU同等国のリストに加えられた場合、例外扱いするという規定があります。スイス(2012年4月)、イスラエル(2012年5月)、豪州(2012年9月)、シンガポール(2012年9月)、ブラジル(2012年10月)、日本(2012年12月)、米国(2013年1月)が例外申請をしています。
 
 既に、スイスが例外申請の承認を得ています。またイスラエルについてはリジェクトされています。他の各国についての申請については、審査中ということになっています。2013年7月までに、これらの申請が通るのかどうか世界が注目しています。(文献3)
 
 日本や米国も、この申請をしておりますが、この申請が通らなかった場合、EUGMPと同等の基準で製造しているという証明を個別の原薬工場に対して発行するのかどうかは不明です。
 
 なお当然ではありますが、上記の法律には、輸出原薬の工場がEU加盟国の査察を受けていれば輸出国のGMP証明は不要であるという例外規定も設けられています。
 
 インドや中国の特許の切れたgeneric API (GE原薬)の製造工場は、多くがICHQ7基準を満たしていないでしょう。また、FDAやEUの査察を経験した工場は非常に少ないでしょう。一方で、EUのGE原薬の半分以上が中国、インドから輸入されているのが現実です。そうなると、この2013年7月にこの法律が施行されてしまうと、EUへのGE原薬輸入がストップして、EUで原薬の不足が生じることが懸念されています。今世界の原薬市場は、2013年7月2日からこの法律がどのようにEUで運用されるのか、固唾を呑んで見守っています。
 
 インド・中国の当局は自国のGeneric API 工場の品質基準をICHQ7の水準でコントロールしているわけではありません。両国は自国の輸出バルクの工場に、EU GMP相当のQAレベルを保証する文書を発行することはできないと言われています。さらに両国は、このようなEUの措置は、非関税貿易障壁であるとWTO (World Trading Organization) に提訴しています。この法律は今や、国際問題になっているのです。
 
 さて、EUはなぜこんな法律を作ったのでしょうか?一方、米国はこのような法律を制定していませんし、これからも制定しないと言われています。なぜでしょうか?
 

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森川 安理

森川 安理

アンリ・コンサルティング 代表。
大学修士課程で有機化学を専攻後、1977年旭化成工業(株)入社。スクリーニング化合物の合成、プロセス化学研究に一貫して従事。この間薬学博士号取得。その後、医薬原薬の工場長を10年経験。工場長として、米国、イタリア、豪州、韓国の当局の査察および、制癌剤を中心にする治験薬の受託生産を経験。旭化成ファインケム(株)を2013年2月末退職。2013年3月より現職。