2021.04.30.FRI

新技術

がんの機能解明から新薬開発を目指す人へ【第3回】

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執筆者:GMP Platform事務局

がんの機能解明から新薬開発を目指す人へ【第2回】

第3回 シングルセルマルチオミックス解析によるメラノーママウスモデルにおける 主要由来造血システム摂動の評価

~BD FACSMelodyTMを用いて4種類の希少細胞集団を同時に分離~

・はじめに

2021年4月4日。池江璃花子さんが白血病の闘病から復帰し、女子100メートルバタフライで優勝し、東京五輪メドレーリレーの代表に内定しました。彼女は2019年2月12日に白血病を発病している事を告白し闘病生活を余儀なくされます。10か月間の治療を経て、アスリートとして復帰し、元気な笑顔と共に東京五輪への出場そして彼女の躍動を応援できる事は本当に喜ばしい事です。一方、日本国内における白血病の発病者数は増加傾向にあり、2017年の厚生労働省の調査結果では、男性が8,038人、女性が5,782人。合計で13,820人の方が白血病を発病しています。白血病の治療法は複数ありますが、治療法のひとつに造血幹細胞移植があり、移植後、細胞の定着率を定期的に検査することは再発を予防する上で、非常に重要です。そのためには、造血摂動メカニズムを解明することが極めて重要で、希少な細胞種の詳細な特性解明や細胞内プロセスの変化に伴うマーカーの潜在的な探究が必要になります。新たな造血摂動メカニズムをモニタリングできるマーカーの発見は、効果的な診断方法の発見や、新たな治療薬の開発に発展していきます。今回は、腫瘍が引き起こす造血システム摂動メカニズムの解明における基礎研究分野での新たな評価方法に関して、日本ベクトン・ディキンソン株式会社のセルソーターを用いた研究成果をご紹介させていただきます。


造血過程は高度に調節されており、造血幹細胞から連続して産生される一連の中間前駆細胞の分化能が徐々に限定されていくことによって多系統の血液細胞が産生されます(図1)。成人期における定常状態では、HSPC の大半が骨髄(BM)ニッチに局在しています。しかし、癌などの病態生理学的状態においては、脾臓(SP)などの髄外組織で造血を生じることがあります。多くの場合、腫瘍の進展は骨髄性抑制細胞(MDSC)、腫瘍随伴マクロファージ(TAM)、および腫瘍随伴好中球(TAN)などの免疫抑制性骨髄細胞の増加と関連しています。これらの細胞は、癌細胞の幹細胞化、浸潤性、および免疫回避を亢進する免疫応答を調節していることが知られています。腫瘍が進展するに従い、産生される骨髄細胞が腫瘍促進機能を有する細胞へと変化することで正常な骨髄造血を阻害し、脾臓での髄外造血を誘発することで継続的な造血補給を後押ししている可能性があります。
このため、腫瘍が引き起こす造血システム摂動メカニズムを解明することは重要です。

本データシートでは、腫瘍が引き起こす造血過程の摂動についてメラノーマモデルマウスを用いて調べました。BD FACSMelody™ セルソーターを使用して健常マウス(コントロール)のBM、および腫瘍移植マウスのBM とSP のそれぞれの組織から4 種類HSPC 細胞集団をソーティングしました。ソートした細胞集団を全トランスクリプトーム解析(WTA)と細胞表面タンパク質解析を行うためにBD Rhapsody™ シングルセル解析システムを用いてキャプチャーし、これらの細胞集団において変化したそれぞれの発現パターンを同定しました。
 

図1. 成体マウス骨髄における造血の概要 
造血幹細胞(HSC)は、複製能に基づき長期造血幹細胞(LT-HSC)と短期造血幹細胞(ST-HSC)に分類することができる。HSC は多能性前駆細胞(MPP)に分化する。これらのMPP 細胞からは、細胞分化能が制限された骨髄系共通前駆細胞(CMP)およびリンパ球系前駆細胞(LMPP)が生じる。骨髄系共通前駆細胞(CMP)からは、巨核球・赤芽球系前駆(MEP)細胞や顆粒球・マクロファージ系前駆(GMP)細胞が生じ、これらから赤血球(RBC)、単球/マクロファージ、顆粒球、および血小板に最終的に分化する。図には、シングルセルマルチオミックス解析のため各細胞集団のソーティングの実験で用いた表現型マーカー(枠内)も記載した。


メラノーマモデルマウスを用いた実験におけるワークフロー(図2)の第1 段階として、腫瘍移植マウスのBM およびSP、健常マウスのBM それぞれから細胞を回収し、lineage 陰性(Lin–)細胞を磁気ビーズにより濃縮しました。次に、BD® Mouse Immune Single-Cell Multiplexing Kit (SMK) を用い、それぞれの組織から異なるLin– 細胞サンプルをラベル化してプールしました。その後、タグを付加した細胞を、ソーティングのために6 色パネル(表1)で蛍光標識し、さらに36-plex BD® AbSeq 抗体(表2)で標識しました。

 

図2. 実験概要とシングルセル解析ワークフロー
3 ~ 4 週齢のC57BL/6 マウスにB16-F10 メラノーマ細胞(腫瘍移植マウス、n = 4)またはコントロール培地(健常マウス、n = 4)を皮下投与した。投与21 日後にBM 組織とSP 組織を摘出し、機械的に細胞を単離した。赤血球はBD Pharm Lyse™ Lysing Buffer により除去した。その後、このサンプルをBD Pharmingen™ APC Rat Anti-Mouse CD16/CD32 (Fc γ III/II Receptor) 抗体を用いて染色し、BD IMag™ Mouse Hematopoietic Progenitor Cell Enrichment Set(抗CD2/CD5/CD19 ビオチン標識抗体を含む)を使って濃縮した。腫瘍移植マウスのBM とSP 組織、および健常成体マウスのBM 組織から回収・濃縮したLin– 細胞に、BD® Mouse Immune Single-Cell Multiplexing Kit に含まれている特異的DNA バーコード付き抗体で染色し、6 色の蛍光標識抗体パネルと36-plex BD® AbSeq 抗体Panel により標識した。4-way ソーティング機能を搭載したBD FACSMelody™セルソーターを使用して、それぞれの組織から同時に異なる4 種類の細胞集団をソートした(全12 チューブ)後、細胞集団ごとに1つのチューブにプールした(全4 チューブ)。次にシングルセルキャプチャーを行うために、プールした4 本のチューブサンプルをBD Rhapsody™ シングルセル解析システムの4 つのカートリッジにそれぞれロードした。シングルセルサンプルを回収後、シーケンス用に、AbSeq、Sample Tag およびmRNA(BD Rhapsody™ WTA)のライブラリーを調製した。
 

6 色の蛍光標識抗体パネルを使用することで、HSPC 集団をLSK、CMP、MEP、 およびGMP の4 集団に分離することができました(図3A)。
腫瘍移植マウスのBM とSP、および正常マウスのBM それぞれの組織から、これらの解析対象の4 細胞集団を同時に分取するためにBD FACSMelody™ セルソーターの4-way ソーティング機能を使用しました。SP 組織中に存在するHSPC 量の比率は、ソートした各細胞集団において健常マウスより腫瘍移植マウスで一貫して高く、腫瘍移植条件下での髄外造血の発生と一致していました(図3B)。尚、健常マウスのSP 組織からは、十分量の細胞数を調製できなかったためソーティングしませんでした。
図3.
BD FACSMelody™ セルソーターの4-way ソーティングに用いたゲーティングストラテジーBD FACSMelody™ セルソーターを用いてBM およびSP の各組織からHSPC のサブセットを分取した。最初にLin– および生細胞をゲーティングし、ダブレット除去してからCD127細胞をゲーティングしてリンパ系前駆細胞を除去した(データ未掲載)。A. LSK 造血幹細胞は、CD127– 細胞集団をLin–Sca1–cKit+ でゲーティングした(上段パネル)。他の造血前駆細胞集団であるMEP、CMP、GMP は、Sca1–cKit+ ゲート内の細胞をCD16/CD32 およびCD34 発現に基づいて同定した(下段パネル)。
B. 移植BM 組織とSP 組織それぞれからソートした各細胞集団における腫瘍移植マウスと健常マウス間のHSPC 存在比率



各サンプルタグに存在する特異的バーコードを用いて各組織サンプルのバイオインフォマティックス解析をSeqGeq ™ シングルセル解析ソフトウェアv1.6 を用いて行いました。SeqGeq™ ソフトウェア用のプラグインである次元削減アルゴリズムTriMap を用い、高次元空間データの近似を低次元空間に圧縮し、3 種類(健常BM、腫瘍移植BM、腫瘍移植SP)の組織からソートした細胞集団を可視化しました(図4)。健常マウスと腫瘍移植マウスそれぞれのBM 組織からソートした個々の細胞集団では、TriMap 空間において互いの分布に類似性が認められました。しかし、同じTriMap 空間における、腫瘍移植マウスのSP 組織からソートした細胞集団の分布との比較では、健常マウスや腫瘍移植マウスのBM 組織からの細胞集団の分布と異なることが示されました。
図4. ソートされた造血幹/前駆細胞集団の教師なし解析
シングルセルデータのTriMap による可視化結果を示す。細胞集団4 種類の全細胞数は最大約31,000 個。
A. サンプルタグによって同定した各組織試料の分布データのオーバーレイ解析
B. ソートされた各細胞集団の分布

 

最初に健常マウスのBM 組織試料を対象とし、ソートした4 種類の細胞集団それぞれに関する免疫表現型および分子マーカーの発現量の解析を行いました。その結果、細胞集団4 種類それぞれにおいて発現量が増加したタンパク質とmRNA 転写産物を特定しました。
(図5)。これらは、文献で既に報告されている結果と一致しており、LSK 細胞ではCD43 やCD49b などのようなタンパク質、Hlf やFosb などのようなmRNA の発現量が増加していました。CMP 細胞では、骨髄細胞系列の分化決定マーカーであるIrf8 の発現量が増加していることが確認されました。また、Car1/2 およびMpo は、巨核球-赤芽球および顆粒球-マクロファージのそれぞれの分化系列決定細胞(すなわちMEP およびGMP)のマーカーであることも既報文献と一致していました。

図5. シングルセルでの細胞表面タンパク質および全トランスクリプトーム解析により明らかにされる正常な造血における各細胞集団間の発現量変化
A. 健常BM 組織からソートしたCMP、GMP、LSK、およびMEP の各細胞集団をプロットしたTriMap オーバーレイ解析
B. ソートした各細胞集団における発現量変化トップ10 のタンパク質とmRNA(イタリック体)について、他3 種類の細胞集団との比較を示す。ヒートマップには、各細胞集団において典型的な200 細胞のデータを示した。


腫瘍がもたらす造血システムの摂動についてさらに深い洞察を得るために、腫瘍移植および健常マウスのBM 組織、および腫瘍移植マウスのSP 組織それぞれからソートしたCMP 細胞集団のタンパク質とmRNA の発現量の変化について調べました(図6)。健常マウスと腫瘍移植マウスのBM 組織間の発現量の差は、これらのBM 組織と腫瘍移植マウスのSP 組織との間における発現量の差ほど顕著ではなく、TriMap で得られた結果と一致していました。Ccl4 mRNA を発現している細胞の個別サブセットは、健常マウスのBM 組織からソートしたCMP 細胞集団にほぼ限定されることが確認されました。Gata2 は、HSC の増殖や生存において極めて重要な役割を担っていることが確認されている遺伝子ですが、腫瘍移植マウスのSP 組織からソートしたCMP 細胞集団において発現量が増加していました。また、同じ腫瘍移植マウスSP 組織のCMP 細胞集団では、腫瘍移植マウスBM 組織のCMP 細胞集団に比べCD47 タンパク質とItga4 の発現量が増加していたことも確認されました。これらのマーカー(CD47 とItga4 )が、HSPC のトラフィキングやホーミングに関与していることがこれまでの研究によって示されています。これらの結果から、CMP における発現の違いは、血中のHSPC がSP および/または腫瘍の影響を受け、脾臓ニッチへ選択的にリクルートされた結果であることを示唆しています。この発現量変化の機能
的な効果と細胞のメカニズムを詳細に解明するためのさらなる研究が求められます。
 

図6.
シングルセルでの細胞表面タンパク質と全トランスクリプトーム解析により明らかにされる健常マウスと腫瘍移植マウスの造血における発現量変化健常マウスのBM 組織、および腫瘍移植マウスのBM とSP の組織からソートしたそれぞれのCMP 細胞において、発現量が増加しているトップ10 の細胞表面タンパク質とmRNA転写産物(イタリック体)をシングルセルのヒートマップにより示す。ヒートマップには、各細胞集団において典型的な200 細胞のデータを示した。


以上の結果から、BD FACSMelody™ セルソーターによる解析結果から、希少な4 細胞集団を同時にソーティングできることが確認されました。貴重なサンプルを無駄にせず、ソート時間を最小限に抑えたい実験系では極めて重要な要素です。さらに今回得られた結果は、希少な細胞種の詳細な特性解明や細胞内プロセスの変化に伴うマーカーの潜在的な探究において、BD FACSMelody™ セルソーターとBD Rhapsody™ シングルセル解析システムを組み合わせた包括的ワークフローが極めて有効であることを実証するものです。

 
 コーディネータープロフィール
 
   小出 哲司
   理科研株式会社 戦略営業部 部長
 
2002年に理研ベンチャー、
株式会社インプランタイノベーションズ取締役を歴任。
2007年より理科研株式会社に入社。2013年より戦略営業部の部長に就任。新規事業開発及び、企業戦略を立案実行。2017年4月より取締役執行役員に就任し現職。顧客の企業価値を高めるための事業推進ドライバーの創出を一貫して推進している。
 
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   舩木将司
   日本ベクトン・ディキンソン株式会社 BDライフサイエンス
   バイオサイエンス事業部  東日本セールスマネジャー
2001年より2010年、理化学機器販売店にて営業に従事。
2010年より2012年、メルク株式会社にて営業に従事。
2012年より日本ベクトン・ディキンソン株式会社 
           BDライフサイエンス バイオサイエンス事業部にて営業に従事。
2018年より日本ベクトン・ディキンソン株式会社 BDライフサイエンス 
           バイオサイエンス事業部 東日本セールスマネジャー。
 
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