2021.01.15.FRI

品質システム(PQS)

医薬品品質保証こぼれ話【第28回】

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執筆者:浅井 俊一

医薬品品質保証こぼれ話【第27回】

エビデンスと想像力

昨今、何かというと“エビデンスはあるの?”などと、科学的な根拠を求める風潮があります。こういった考えは、科学研究を進める際には当然重要であり、この考え方や進め方は“Evidence-Based” 或いは、“Science-Based”、などと呼ばれます。しかしながら、この“エビデンス”は、簡単に得られるものではなく、検証方法や根拠となるデータの質や量により結果が左右され、一般に、信頼性の高いエビデンスを確認するのは容易ではなく、それなりの時間と労力を要します。稀に、歴史的な研究の成果が、その後の研究によって得られたより信頼性の高い“エビデンス”により覆されることがあることからも、このことは理解されます。先般、新型コロナウィルスの感染拡大に対する“Go toトラベル キャンペーン”の影響が問題になり、医師会などからも再三、このキャンペーンの中止要請がなされましたが、政府は“エビデンスがない”として、頑なにこのキャンペーンの中止を拒みました。

信頼性の高いエビデンスは、上記のように簡単に得られるものでなく、特に、この課題のような疫学的調査によって確たるエビデンスを得るには、調査対象となる人の年齢層や数、地域など、関連する様々な要因を包含するきめの細かい調査計画に基づき実施し、統計学的にも信頼がおける調査母数と解析手法が求められ、確たるエビデンスを得るには相応の時間を要します。ちなみに、旅行は“移動”だけではなく必ず“飲食”を伴い、しかも、気分が解放されることから、旅行先ではマスクなども外し会話も普段より声高でなされる可能性が高いと考えられます。正しいエビデンスを得るためには、このような想定される要素も分析結果に反映させる必要があります。先日、感染者数の報道の際、“旅行”や“飲食”を含め要因を5つ挙げ、これら要因ごとの感染者数が紹介されていましたが、感染者のとりまとめに際しては、理想としては、旅行、飲食、家族、職場、学校、病院、介護施設など、感染機会の要因ごとの情報を集計し周知することが、より的確な感染防止対策につながると考えられます。

一般に、状況を判断する根拠として“しっかりしたエビデンス”があればベストですが、これがない時点で、緊急性を要する対策が必要となった場合は何を頼りに判断し、行動を起こせばよいのでしょうか?先ず考えられるのは、既知の情報や知見を基に、“想像力”を働かせるということではないでしょうか?“想像力”は“想定力”と言い換えることもできます。想像力を働かせ、考え得る対策を実践し、効果が期待できないと判断すれば中止し、効果が認められたら継続する。いわゆる、試行錯誤の繰り返しです。上記キャンペーンの感染拡大への影響に関して言えば、その時点ではエビデンスが確認されていないだけであって、その後、しかるべき手法で検証された場合、両者の相関が証明される可能性は高いと想定され、感染者が急増する中では、このキャンペーンを直ちに中止するのが妥当な対応と思われます。
 

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浅井 俊一

浅井 俊一

1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。