2020.10.16.FRI

品質システム(PQS)

医薬品品質保証こぼれ話【第22回】

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執筆者:浅井 俊一

医薬品品質保証こぼれ話【第21回】

ピンチをチャンスに!

“人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし”。かつて、徳川家康はこの一文で始まる遺訓において、人の一生は苦労の連続であり、急がず忍耐して無欲に生きるのが賢明な生き方であると諭しています。今の時代を生きる人の多くも、長い人生の中で様々な苦労を経験し、時には、予期せぬ事件や事故に巻き込まれる、また、仕事で重大な失敗をするなど、大きな苦難に遭遇されたこともあるのではないでしょうか?今、コロナ禍により世界中がかつてない苦境にあり、多くの人が逆境に立たされていますが、こういう状況においても、“ピンチはチャンス”と捉え、ポジティブに生きようとしている人は少なくありません。今回は、想定外の苦難や重大な失敗に際し、人はどうすればそれをチャンスと捉え、状況を改善させ、また、時に、大きな成功に繋げることができるのか、そのあたりについて、医薬品製造の領域における失敗やトラブルへの対応の考え方にも触れながら、若干の考察を試みたいと考えます。

医薬品の製造や品質管理の業務においては、重大なミスやトラブルが発生した場合、逸脱管理やCAPA(Corrective Action & Preventive Action:是正措置/予防措置)といった設定された手順に基づき、原因究明など必要な業務を推進し、工程改善や状況の是正を行い、その内容を教育訓練として関係者に共有し再発防止や業務システムの改善に努めます。このように、医薬品製造の領域においては、様々な工程トラブルや品質に影響を及ぼすヒューマンエラーなどが発生した場合、それを改善の好機、或いは、より堅牢な品質システムへの改変のチャンスと捉えることを、システム(医薬品品質システム PQS: Pharmaceutical Quality System)として構築し、日常業務の中でごく普通に行われています。言わば、この領域においては、“ピンチをチャンスと捉え前向きに対処する”ことは、日常、当たり前のこととして行われており、さらに、原因究明や改善対策を行う過程で得た情報や知識・知恵は、以後の活用に備え蓄積し、関係者に共有・継承するといったところまでシステムとして整備し、再発防止や類似のミスの発生防止に役立てられています。

一方、一般には、決められたシステムなどはなく、重大な問題が発生した場合、それが個人の問題であろうと、地域や社会に及ぶ事案であろうと、その都度、個別に対処し、試行錯誤しながら問題を解決するというのが通常の流れであり、その経験を蓄積し継承することに関しても、定められた手順というものがないのが普通です。ただし、ISO(International Organization for Standardization)の基準や考え方などを適用している事業所においては、上記のような医薬品製造における手順と同様な対応がなされていると推察されます。このように、一般には、原因究明、改善対策といったことがシステムとして構築されていないため、解決に向けての対応が円滑に進まず、さらには、その経験の継承も適正になされないため、時間の経過の中で忘れ去られ同じ失敗やトラブルが繰り返されることになります。しかしながら、今回の感染症のような、日常を揺るがす重大な問題に関しては、経験から得られた知見に基づき対応の手順を策定し、医薬品製造管理の領域で実践されているようにシステムとして運用することが望まれます。

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浅井 俊一

浅井 俊一

1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。