2020.08.21.FRI

品質システム(PQS)

医薬品品質保証こぼれ話【第19回】

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執筆者:浅井 俊一

医薬品品質保証こぼれ話【第18回】

医薬品の国産回帰

医薬品製造の国産回帰の重要性に関してはこれまで折りに触れて述べてきましたが、今回の新型コロナウイルスのパンデミックにより、その必要性はより鮮明になりました。しかしながら、この課題を実現するのはそう簡単ではなさそうに思います。今回はそのあたりについて、考察を進めたいと思います。国産回帰の必要性は医薬品や医薬品原料に限らず、IT領域をはじめさまざまな産業領域に共通して言えることはいうまでもありませんが、それは、この課題の鍵を握っている中国に過度に依存してきたことによります。

特に、この10年余り、多くの企業が、様々な産業領域の製品や部品が迅速・安価に入手できることに甘んじて、ときに、品質面で苦汁を飲むといった経験もしながら、中国製の製品や部品を重宝し、企業競争という側面においてもそれぞれに恩恵を受けてきました。こうして、中国に頼り過ぎてきた結果、今の状況を招いたと言えるでしょう。“依存”はリスクと隣り合わせにあり、それが大きければ大きいほど、それを失ったときのダメッジは大きくなります。中国への過度な依存は製品や部品に留まらず、インバウンドと称される、観光産業やドラッグストアなどの小売業にも及び、今、その反動でこういった領域も大きな打撃を受けているのはご承知のとおりです。

中国の企業は何をやるにしても早く、低価格でそれなりの品質のものを迅速に生産し提供することに長けています。今回のコロナ禍においても、マスクは勿論、防護服やフェイスシールドの製造工場をいち早く立ち上げ、多くの企業が政府の許可を得て生産を始め、国の内外に提供しています。ちなみに、私の知人も驚くほどの速さで上海近郊に医療用マスクの工場を新設し、先般、その稼働状況を示す動画をSNSで送ってきました。また、中国では新型コロナウイルスの感染が収まったとして、すでに多くの製品や原材料に関し、多くの工場が稼働を再開し各国に提供できる体制を整えてきており、日本企業にとっては、これまでの提携先や関連企業などを通して連絡をとれば、一部、建築関連の製品などを除くと、原薬などを含めほとんどのものは入手することが可能となってきています。こういった現状の中、対応のスピードやコスト、また、コロナ禍終息後の需要を考慮すると、多くの日本の企業はマスクや原薬に限らず、新規に生産に乗り出すことに二の足を踏むのも理解できます。

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浅井 俊一

浅井 俊一

1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。