2020.07.10.FRI

品質システム(PQS)

ドマさんの徒然なるままに【第18話】

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執筆者:古田 ドマ

ドマさんの徒然なるままに【第17話】



第18話:ミッション:ポッシブル

(バックにミッション:インポッシブルの音楽が流れているつもりで)
♪ ♪ ♪ 実行可能な指令を受け、頭脳と体力の限りを尽くしもせず、これを嫌々ながら遂行するごく普通の人々の活躍である ♪ ♪ ♪

(自宅のバソコンに怪しいボイスメールが届く)
「おはよう、ヘルペス君*1。今般、新型コロナウイルスがまん延してしまった。日本でも、この4月に緊急事態宣言が発せられ、外出自粛や営業自粛が要請された。5月下旬には解除されたものの、製薬企業の品質保証業務としても大きな問題が出ている。そこで君への指令だが、このような状況の中でも医薬品の品質の維持・向上のための“New Normal(新たな日常)”としての業務の在り方、特に監査の在り方について検討してほしい。例によって、君、もしくは君のメンバーが監査先の会社様から嫌われ、あるいは契約解除を求められても、当局は一切関知しない*2からそのつもりで。成功を祈る。なお、“このパソコン”は自動的に消滅する。」
プシューーー。

(ヘルペス君)
ちょ、ちょっと待て。勝手にボイスメール送っておいて、パソコン壊すな。ボイスメールだけ自動消去すりゃいいのに。コンピューターウイルスよりひどいわ。しかもクリックもしておらんのに勝手に開いて。弁償しろーーー!
あー、依頼なんで仕方ないから、半都 良さん*3にでもやらせるか。


さて、「スパイ大作戦(Mission: Impossible)」のナレーションのパロディはともかくとして、新型コロナウイルスによる新たな日常を真剣に考えざるを得なくなった。それに伴い、日々の生活のみならず、仕事の在り方についても再考する必要が生じた。医薬品の品質についてはどうであろうか。当たり前だが、品質そのものが影響されるわけではない。それこそあってはならない。しかし、その保証の仕方はどうか。そのやり方、すなわち運用方法については、少し変化が生じる。いや、変化させないといけないのではないか。例えば、外部委託先の監査はどうか。必ずしも訪問監査である必要はないとされてはいるが、現地での確認は手っ取り早いし、確実であるのも事実。でも他社への訪問、まして海外となれば、現状では困難と言え、先々どうなるかが見えない。ならば、新たな日常の一環として、新たな監査の仕方を工夫してみたい。

なお、本話は製造販売業者の目線で、しかも原薬および製剤の製造の委託側を軸にして執筆している。個人的には、原材料等のサプライヤーに対しても、設備機器やユーティリティー(空調・用水等)のサービスブロバイダー、さらには市場への出荷後のGDP関連の倉庫・輸送業者に対しても当てはまると思っている。また、所々には受託側として考えるべき、検討すべき準備についても触れたつもりでいる。ただ、あくまで筆者の私見であり、絶対的なものでもベストなものでもない。参考情報の1つとして、こんなやり方、こんなことを押さえておきたいよねー、といった感じで受け止めてもらいたい。


ポイント1:オンラインによるリモート監査の可能性を検討し推進してみては?
・ 受託側にオンラインによるリモート監査が可能かどうか確認する。
⇒外部委託先やサプライヤーのクオリフィケーションが問われる中においては、たとえお初で契約前であったとしても、受託側として非協力的な態度であれば、それはビジネス的にもマイナス要因にしかならないのでは?
・ 場合によっては(必要に応じては)、Quality Agreementを見直し、オンラインによるリモート監査の追加について合意しておく
⇒あくまで一手段にすぎないので、「監査」として合意していれば現状でも包含されると考えるが、今後のためには明文化しておくことを推奨する。
・ 委託側として効率的に進めるために事前の質問状やチェクリストを活用する。
・ それに伴い質問状やチェックリストの内容を見直す(詳細は次項目を参照のこと)。
・ 監査当日に確認したい事項や場所は事前に伝えておく
⇒それによっては、委託側の参加者および受託側の応対者が変わる可能性がある。
⇒委託側・受託側双方ともに出席者リスト(氏名・部署名・役職・GMP上の立場などを記載、可能であれば顔写真付きだと便利)を用意しておく。名刺交換の代わりともなる。
⇒準備しておく文書や記録等のリスト(必ず確認するものだけでなく、可能性の分も含めておいたほうがベター)を用意しておく。
⇒確認する必要がある文書・記録等については可能な限り事前送付がベター(ハードコピー and/or pdfファイル等)。
・ 現場ツアーとしてのライブ映像(施設や設備等)の可能性について確認しておく。
⇒現場担当者がスマホやライブフィードカメラで映しながら説明してくれれば可能なはず。
⇒固定カメラがアタッチしている製造施設や設備等ではそれで十分に対応可能。
⇒ただ一方で、撮影禁止区域等もあるかと思うので、理由込みでの合意が必要。
⇒施設やエリアによっては入室できずに外側からの撮影限定の場合もありうる(それで十分か否かの確認が必要)。
・ 監査時においては、問題点にフォーカスして進めるように心がける。
⇒委託側・受託側の双方で事前にチェック事項を示し合わせておかないと無駄時間が生じる。
⇒定期的監査の場合は、出来るだけ一般事項を避け、自製品に関連した内容に特化して確認する(一般事項については指摘でもしていない限り、以前の監査で分かっているはず)。
・ 委託側・受託側のそれぞれとして事前にトライアルの実施を推奨する。
⇒当日のオンラインの支障は致命的(場合によっては、日を改めざるを得ない可能性すらある)。
⇒音声は通じても資料等の画面提示に問題が生じることもある。
⇒特に、施設や設備等のライブ映像については、説明動線と現場説明者の能力が物を言う。

ポイント2:事前の質問状やチェックリストの内容を見直しバージョンアップして
      みては?
・ 訪問監査しないで済むことを前提とした質問状やチェックリストにする。
⇒委託側・受託側の双方が要件としての形式の監査対応(悪く言えば、中身の無い実施回数優先としての監査)に至ってしまっていないか再考すべき。
・ 一般論としての必要事項(法規制としての要件)と自製品の品質リスクを鑑みた事項(製品ごとに異なるはず)とを明確にする
⇒数種類(例えば、原薬・製剤・包装などの分類)の一般的質問状で済ませている会社様もあるのではないかと推察するが、そのような大分類では限界があるのでは?
・ 委託側として意識(注意)している点を明確化して質問する。
⇒受託側においても「委託側が何を気にしているか」が分かり易いチェック項目のほうが的を射た回答が可能で楽なはず。
・ 質問状の目的を明確化してその都度作成する。
⇒お初の委託先選定のためなのか、定期的監査なのか、前回の指摘改善の確認や変更・逸脱時の確認(ある意味、for Cause Audit)なのかをハッキリと伝えることは重要。
⇒毎回作成するのは面倒でも、監査は質問状やチェックリストを作成する段階からスタートしているという認識が大事。作業としては、現在所有しているものをテンプレートとして作成すると思うので、さほど手間を要するとは思えない(そもそも手を抜くなんてことがあれば、違う意味で、それこそ問題)。
⇒お初では必要な事項であっても定期的には不要である場合もあるはず。一方で、定期的な場合はより深掘りした内容が求められはず。
・ 定期的監査の場合は、前回の指摘事項改善の現状チェックを忘れずに挿入する。
⇒個々の改善についてはDue Dateに基づき終了しているはずなので、前回の指摘事項全てについての改善確認を行うというのではなく、不十分、未完了や継続中などに絞ったチェックが必要(途中途中でチェックしていなかったのであれば、委託側のGood Practiceとして問題視されるに違いない)。
・ 施設・設備の環境管理に関する事項を挿入する。
⇒GMP施設にあっては、無菌原薬や無菌製剤は当然のことながら、非無菌原薬や内服固形製剤であっても、(ウイルス管理として実施しているかどうかはともかくとして)かなりキチンとした微生物管理を行っているはず。少なくとも、本邦におけるGMP施設であれば、むしろ共有機器のクロスコンタミのほうが問題かと思う。海外の場合、浮遊微粒子はともかく微生物管理に及んでいない場合があるので注意が必要。
⇒GMPとしての微生物試験室は当たり前すぎて言うまでもない(一歩間違うと致命的な指摘に繋がってしまう)が、理化学試験室における環境管理の確認は、データへの影響はともかくとして管理意識の高さを窺うには好都合。少なくとも注意喚起としては有効。
・ 作業者の衛生管理に関する事項を挿入する。
⇒当たり前すぎて言うまでもないレベルの話ではあるが、具体的な手順から当該施設・会社の認識レベルや対応レベルが読み取れる。
・ 必要に応じては、市場出荷に際してのGDP関連の間接業務に及んで確認する。
⇒自製造所・自社から外部に対する意識は当該製造所・会社の品質に対する意識が反映する。
⇒ウイルス・微生物は自製造所に留まっているわけではないことを踏まえ、広義のGMP(そもそも海外ではGQPもGMP)としてGDP領域を含めた分かる範囲での出荷後情報についても把握しておくべき。
⇒今般の新型コロナウイルスの問題は、当該ウイルスのみならず、医薬品産業におけるリスク管理の一環として、今後のウイルス・微生物全般の対策として拡大することを想定しておくべき(新たな日常の意図するところはここにあると考える)。
⇒なお、GDP関連業者であれば、現時点でも作業員・保管施設・輸送車両コンテナ内の衛生管理が対応済みであることが前提(作業員・ドライバーの手洗い・マスクに加えて保管庫内・コンテナ内の消毒が、さらに輸送用梱包周りの消毒さえも想定される)。

ポイント3:今後の監査のための姿勢
・ 監査という作業が委託側と受託側の共生であると認識する。
・ 従来のやり方に固執せず、先々を見据えた見直しとして、効率的かつ効果的な進め方を検討する。
・ そのためにも、この機会に医薬品の品質保証の本質を十分に理解し運用方法については柔軟に対応する(規制要件を満たすことが目的ではない)。
・ あくまで規制要件は最低限必要な事項を列記しているに過ぎないことを再認識する。
・ 自社・自製造所の製品特性や物性を再認識する。
・ それにより当該製品の品質リスクを再チェックする。
・ 品質リスクに基づき、委託先で確認が必要な施設・設備機器・文書などを特定する。
・ 合せて、品質リスクに基づき、確認の濃淡をつける(必須>可能であれば>時間があれば>不要など)。
・ QA任せにすることなく、委託側においてはCMCやエンジニア等の各専門分野の者が、受託側においては各現場の担当者の協力が必要(QAはGood Practicesの専門家かつオンラインでのMCの役割と認識すべき)。

その4:難点はないのか? 注意すべき点は?
・ オンラインでは、顔色を窺うといったチェックができない(しにくい)。
・ ランチタイムやコーヒーブレイクといった休憩時でのちょっとした本音や実態を窺うことができない。
⇒意外とこういうオフタイム時に真の姿が垣間見れたりする(受ける側は気を付けること)。
・ 応答にはタイムラグが生じる。
⇒加えて、不十分な回答や勘違いの回答であれば、イラつくのが人情(受託側としては印象を悪くしてしまう)。
・ 齟齬が生じやすい。
⇒険悪な状態にならないようにお互い注意しましょう。
・ 特に通訳を介在させた場合は、時間的に非効率的である、と同時に齟齬が生じやすくなる。
⇒逆に通訳を付けずに中途半端な理解で合意し、後に困ったなんて事態にならないように注意しましょう(海外とのブロジェクト会議等ではよくあるパターンである)。
・ 文書・記録の提示が必ずしも迅速に出来ない可能性がある。
⇒対面でもノロい会社様はオンラインではそれが増長される。
・ 特に、事前に申し出ていない急な対応、例えば指定外の記録等の要求に対しての用意や提示については、訪問監査時以上に時間を要すると推測される。
・ 現場の再確認といったことは絶望的(訪問監査時でも避けるべきことではあるが・・・)。
・ 率直に言って、対面と同じレベルで迅速かつ丁寧な対応を求めることは無理。
⇒あくまで、事前の連絡と準備の際に的を絞っておき、それが満たされれば良しとせざるを得ないと考える。

以上が筆者として思うところの“新たな日常に向けた監査”の留意点である。現時点で大幅な変更や費用をかけることなく対応可能なこととして頭に浮かんだ点をザーッと列記しただけなので、足らない点もあれば、表現違いで重複する内容があるかもしれない。読者として、「なーんだ、そんなことは既にやってるよ」と言うのであれば、それはそれでいい。ただ、相手様も同様に対応済みかどうかは分からない。監査については、相手様の理解と協力が不可欠である。そのためにも、オンラインによるリモート監査の書面による合意(Quality Agreementへの明記による改訂など)が必要になるものと思われる。両社で合意すれば、あとは習うより慣れろとして実行あるのみである。

本話、『勝手にGMP論』シリーズ*4の第5弾(カミングアウト版を除く)でもある。外部委託先への監査、GMP・GDP・GQP(以下GxPと略)の要件とは別に、その運営実態、特に細部に至っては各社様々である。そこには外部委託先の種別の違いのみならず、当該社の考え方が影響する。ただ、一度やり方を決めてしまうと、なかなか変えようとしないのも事実である。たまたまCOVID-19パンデミックという致し方のない状況になってしまったのであれば、これを機に現在のやり方を見直し、より効果的なやり方を検討してみては、いかがであろうか。

読者としては、もっと具体的なやり方やチェックリスト等を示してもらいたかったという思いであろうが、先にも記したように、監査自体が個々の製品の品質リスクに依存し、各社での考え方の相違もあって、仮に一例を挙げてもあまり役に立たない。さらに言えば、参考として示したものを鵜呑みにされ用いられることが懸念される。もしそうなれば、「第10話:世界に一つだけの GMP」にも記したように、筆者として不本意な結果となってしまう。

どこの外部委託先に、どのような質問状なりチェックリストなりを作成するかといった時点で既に監査が始まっている。ある程度の労力を使うことで、相手様のGxPのレベルや考え方も見えて来るに違いない。そもそも監査という作業はそういったものなのである。本話に示した作業や対応、実施する側・受ける側を問わず、どこの会社様でもやろうと思えば出来るんじゃないですか? それこそ、“ミッション:ポッシブル”ですよ。

では、また。See you next time on the WEB. 

【徒然後記】
天国の妻へ
お前がそっちに行ってから、既に5年半が過ぎた。まだ独りで頑張ってる。こっちでは、お前も味わったことのない、とんでもない新型コロナウイルス感染が世界中に拡がってしまった。学校も4月・5月は休校になってしまった。お前がお里帰りで産まれたと言って喜んでいた、あの孫も今年ご入学だったのに入学式もままならぬまま、6月になってぼちぼち学校に行き始めた次第だ。それにお前がそっちに行ってから生まれた孫もいる。古い言い方にはなるけど、我が家の跡継ぎだ。もうそろそろそっちかなーと思ってたけど、もう少し待って。新型コロナウイルスのワクチンや治療薬が開発され、終息の目途が立つまで、子供たち家族の生活が落ち着くのを見届けたい。それまで、もう少しこっちで様子を見ていたいんだ。こんな遅刻だったら、許してくれるよね。お前ならわかってくれると思う。そしたらそっちに行くから。もうすぐさ。それまで、俺のわがままを許してほしい。そう、もうちょっとだから。

お前のことが少しも分かっていなかった、バカな夫より

 
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*1:(天の声)「ヘルペス君」だって? お前、それ自体が病気じゃないか。
(筆者) 気にしないで、TVドラマ「スパイ大作戦(原題がMission:Impossible)」での2nd シーズン以降のリーダーだった「フェルプス」と、何となく似てない?
《注》「スパイ大作戦」は、トム・クルーズ主演による映画「ミッション:インポッシブル」シリーズの基になった、1960年代後半から1970年代初頭のTVドラマの放映タイトルです。
 
 
*2:(天の声)自分たちに責任は無いってことか? どこかの国の政府と同じじゃのー。
 
*3:(天の声)半渡 良さん、だって? トム・クルーズ演じるイーサン・ハントのことか?
(筆者)ヘルペス君もそうだけど、細かいことを気にしないように。小説家の半村 良だって、イーデス・ハンソンの洒落だとかいう噂もあったでしょ(実際は違うとのことです)。
 
*4:『勝手にGMP論』シリーズ、第1弾から第4弾までは、以下の通りである。
第1弾:第5話「X+Yの悲劇」
第2弾:第6話「Psの悲劇」
第3弾:第9話「Sustainable GMP」
第4弾:第10話「世界に一つだけの GMP」
カミングアウト版:第14話「Into The Unknown」
 
 
  
 

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古田 ドマ

古田 ドマ

GMDPエッセイスト

2018年に薬業関係の某有名誌のオンライン版にコラムニストとして忽然と登場。製薬業界の内部事情に詳しく、特に監査業務に造詣が深いことから、医薬品の品質保証業務に従事していたものと推測されるが、その正体は不明。毒舌的な内容が多いものの、ヒューマニズムを掻き立てる心温まる物語的な内容のものもあり、歯に衣着せぬ物言いは実務担当者にとっての心の声を反映した本音トークとも言える。