2020.06.19.FRI

品質システム(PQS)

医薬品品質保証こぼれ話【第17回】

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執筆者:浅井 俊一

医薬品品質保証こぼれ話【第16回】

リスクマネジメント

今、未知のウイルスが世界中で人命を脅かし、極言すれば、人類存亡の重大なリスクに対面しています。本日現在(4月18日)、感染者が最多のアメリカの感染者数は724,705、死者数は34,181、また、当初、ヨーロッパで最多だったイタリアでは、感染者、死者がそれぞれ、181,228、24,114と報道されています。このような人命に対する甚大な被害が出る感染症に関し、リスクマネジメントを考える場合、医薬品製造の領域に特化して示されている、「ICH-Q9:品質リスクマネジメントに関するガイドライン」などGMP関連のガイドラインは、直接的にはあまり意味をなさず、もっと大局的な視点が求められます。こういったガイドラインは基本的に、製薬工場の安定的な操業、すなわち、作業者が通常どおり勤務でき、原材料がこれまでどおり円滑に調達でき、職員の給料や原材料を購入する資金の確保にも何ら問題がない、つまり、人・物・金が安定的に確保できることが前提とされています。一方、医薬品の品質と安定供給の確保は、人間がこの地球上で生存し続けるためには必須であり、世の中がいかなる混沌の中にあっても維持する必要があり、これに関するリスク管理は重要です。

今回のような感染症が蔓延する状況の中で、この医薬品の安定供給という極めて重要な命題に対峙するときは、上記のように、「リスクマネジメント」をもっと広い視野から捉え、日頃からその対策を考えておくことの必要性を、今回、誰もが感じたのではないでしょうか? また、それが一企業の努力のみでなし得るものではなく、企業間や官民の連携は勿論、今ほどグローバリゼーションが進展した時代においては、地球規模での連携・協力なくしては達成できないことも、誰もが気づいているはずです。今後、この課題を、領域を超え、さまざまな協力関係の下で、国境を越えて、人知を集め対応すべき課題と捉え、考え方を同じくする多くの国が連携し、国際的な重要課題として取り組むことが望まれます。

今回のパンデミックは、アメリカやヨーロッパの主要国など世界を牽引する国での感染の伝播がより深刻であり、こういう状況下では、もし、日本だけが影響を小さく抑えることができ、早期に社会活動が再開できたとしても、直ちに、元のような状態に戻すことはできません。あらゆる活動がグローバルに進められている現在の世の中においては、経済や産業に大きな影響力を持つ主要な国も同様に活動が再開されないと日本は立ち行きません。これは、すべての国について相互に言えることですが、特に中国は、自動車やIT製品をはじめとするさまざまな製品と部品の多くを生産し、世界各国に供給しているという現状があり、製造業の領域において強い影響力をもっています。勿論、医療関連でも、ご承知のように、原薬をはじめとする医薬品の原材料なども多くを中国に依存しており、事情は変わりません。また、今回のコロナ禍において、医療用のマスクなど医療現場で必要とされる物品に加え、一般の使い捨てのマスクも長きにわたり不足するという事態が生じましたが、このことを誰が予想できたでしょうか。こういったところでも、中国が大きな影響力を持っているのが現状です。

医薬品の安定供給を障害するリスクには、これまでにも述べてきているように、さまざまなリスクが考えられ、それへの対策として、例えば、海外を含め、生産拠点を複数もつといったリスク分散の手法がありますが、これは地震や水害など特定の地域に発生する自然災害のリスクに対しては有効であるものの、今回のような感染症で、かつ、世界のほとんどの国に伝播・拡大するといった状況下では功を奏しません。2003年に発生したSARSは中国やアジアの数か国で発生し、幸いにも日本は影響を受けなかったことから、対岸の火事のような状況の下で終息しましたが、グローバルな人の移動が大量かつ高速に行われる今の時代は、一旦、発生すれば、今回のように感染が地球規模で急拡大する可能性が高いこと踏まえると、今後、この感染症リスクに対し、原点に立ち返ってその対応スキームを構築する必要があるでしょう。

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浅井 俊一

浅井 俊一

奈良県出身。1974年ロート製薬入社。
品質管理、薬事、品質保証の各業務に、それぞれ7年,15年,16年間従事。
2012年退職後、2018年まで中国の原薬工場および日本の受託企業において、改善指導や人材育成を含む品質保証全般の業務に携わる。
中国での活動に、「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、CFDA主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
主な取り組みテーマは、「製薬工場のヒューマンエラー対策」、「中国等海外原薬の品質と安定供給の確保」、「GMP記録の信頼性確保」など。
また、人材育成に関連して、組織コミュニケーションの活性化、作業者のモチベーションの確保などにも取り組む。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー 薬剤師。